
sonoを使っているアーティストやDJの皆さんへのインタビュー企画、久し振りの13回目となりました。
今回は北海道で電子音楽にアイヌ楽器「トンコリ」の演奏を合わせた「アイヌトロニカ」という音楽活動をしているTowa Ainutronicaさんのご登場です!
アイヌトロニカとはどんな音楽なのか、現在の活動やTowaさんの音楽ルーツ、そしてこれから行おうとしていることについて、色々とお話を伺いました。
アイヌ音楽とエレクトロニカの融合、アイヌトロニカ
mimy: Towa Ainutronicaというお名前で活動していらっしゃいますが、「アイヌトロニカ」とはアイヌの音楽とエレクトロニカの融合という感じですか?
Towa: はい。アイヌの伝統的な楽器「トンコリ」と「ムックリ(口琴)」を使って電子音楽と組み合わせた音楽を作っています。
「アイヌ神謡集」という本を書かれて19歳で亡くなられた知里幸恵さんという方がいらっしゃるんですが、そのアイヌ神謡集を野外でシンセサイザーに合わせて朗読したり歌ったり、ということもやっています。
アイヌトロニカは相方と二人で活動していて、その時は相方が弓を持って、一緒にアイヌ舞踊の弓の舞も舞ってもらいながら演奏してるんです。
mimy: Bandcampにアップされている曲ですね?
Towa: そうです。「ku rimse」という弓の踊りの曲なんですけど、音と踊りの両方を楽しめて面白い感じだと思います。
また、今年の2月にはTakuya Yamashitaさんにフィーチャーしていただいたんですが、自分の憧れてる方なのですごく光栄でした。
mimy: Fearless Recordingsからリリースさている楽曲ですよね。
Towa: 私は屋外でフェスに出たりホテルで演奏したりという仕事が多かったので、こうした形での楽曲のリリースは初めてで全然わからないことばかりだったんですが、レーベルの方たちが色々教えてくださったので本当に感謝しています。
Fearless RecordingsのLuNaさんとLuziqさんのサポートがなかったら、私はきっとリリースできなかったと思います。今回リリースさせていただいたことがすごく良い経験になりました。
Towa: 同じ北海道出身で活躍されているTsuruSwingさんとのコラボ曲「Nisat」もリリースされます。とてもさわやかな夜明けのような曲に仕上げてくださいました。
私はトンコリ、ムックリ、ウポポ(歌)で参加しています。是非そちらもチェックしていただけたら嬉しいです。
ピアノと和楽器と詩吟の世界に囲まれて育った幼少期
mimy: Towaさんはどういうきっかけで音楽を始められたのですか?
Towa: 幼少期からピアノは習ってたんですよ。坂本龍一さんがすごく好きで、クラシックよりも坂本龍一さんを弾きたいと思ってスコアをいっぱい買いあさりました。
小さい頃からピアノで作曲していたんですけど、譜面起こしがすごく苦手で。だから今作っている曲も全部楽譜がなくて、感覚で作って耳というか頭で覚えています。
同居していた祖母が詩吟の先生で、小学校の頃に祖母から詩吟も習っていました。母方の祖母もお琴と三味線をやってたので、小さい頃から和楽器と詩吟に触れて育ちました。
それだけでなく、いろんなジャンルの曲が好きでした。電子音楽もやっぱり好きだったし、ジャズも聴くしロックもプログレも聴くし・・・という感じで幅広く音楽を聴いていました。
あとは、いろんなワールドミュージックも好きで。インドのベンガル地方にいる「バウル」という流浪の民の音楽に惹かれて、同じ楽器を買って家で鳴らしたりしています。
Towa: そのあと、岩下志麻さんが若い頃に出ていた「はなれ瞽女おりん」という映画を夜中のテレビで見て衝撃を受けたんです。北陸のほうの旅芸人というか、目の見えない人たちが三味線を弾いて歌ってお金をもらいながら集団で生活されている様子を描いた話で。
そういった、その場で弾いて喜んでもらえるような音楽が、まさに自分のやりたかった音楽のスタイルなんですね。
よく大道芸人の方が足でどんどんとドラムを鳴らしてハーモニカを咥えて、全部で3つくらい一緒に楽器を演奏してるじゃないですか。ああいうのが私は好きで、旅をしながらどこかで弾いて誰かに聴いてもらって、そこで喜んでもらえれば・・・という感じで。
アイヌ楽器「トンコリ」と出会い、現在の活動に繋がる
mimy: そこから「アイヌトロニカ」という音楽に繋がっていくのは、ご自身もアイヌとしてのルーツをお持ちでいらっしゃるのでしょうか?
Towa: 札幌に住んでいた時期にトンコリをずっと習っていて。
アイヌトロニカは、アイヌの「エカシ」と呼ばれる長老の人に「私もアイヌの音楽をやってもよろしいでしょうか」とお赦しをもらいに行ったら「やれば良いんじゃないのか」と言ってもらい、それで私のトンコリの師匠である早坂賀道を相方としてユニットを組み出したのが最初です。
相方はアイヌのクォーターなんですけど、私は自分のことはずっと生粋の和人だと思ってたんです。
それが数年前、遺伝性の病気を発症して治療のため遺伝子検査をすることになり、調べてもらったことや、親戚からの話等でアイヌの血も入っていたというのがわかって。
だから、それまでは「(アイヌとそうでないほうの)どっちにも入れない」という寂しさがちょっとあったんですけど、今はもう堂々と「アイヌの楽器をやって良いんだ」って思えるようになりました。
そうこうするうちに、相方がどんどんいろんな活動で忙しくなってきたので、私も去年あたりからソロでも活動するようになってきました。
その前はホテルの仕事などはソロでもやってたんですけど、今年あたりからソロを増やしていこうかなと思ってます。
mimy: トンコリって、弦楽器なんですか?
Towa: はい。北方民族とアイヌ民族の5弦の楽器で、開放弦なんです。
札幌時代のあと地元に帰ることになり、車でドライブしてる時にロッジ風の素敵なカフェを見つけたので車を停めて玄関まで行ったら、実はカフェじゃなくて一般のお宅で。
「あ、まずい。これカフェじゃなかった」と思って帰ろうとしたら男性が出てきて。その方が彫刻をしているという話で、「彫刻をたくさん飾ってるから見ていったら」って言われたので見せていただいたら、たまたまトンコリを作ってる方だったんですよね。
mimy: すごい偶然ですね!
Towa: 彫刻家で小説家でもある上伊澤洋先生という方なんですが、「自分もトンコリやってるんです」って言ったらびっくりされて。
それからお互い病気になってしまい、数年間会えなかったんですが、自分の治療が終わってすごく心配で会いに行ったら先生もお元気になられていて、「俺、もう一回トンコリ作るわ」と、私にトンコリを作ってくださったんです。
お互い年齢は違うけど親友同士みたいな仲間になって、それから今までに何台も作ってくださり、そこから私もホテルなどで弾くことが始まりました。
mimy: Towaさんは素敵な出会いに恵まれていらっしゃいますね。
Towa: そうですね。(その方は)もう70歳を越えた方なので年齢は全く違うんですけども、やっぱり友情って成り立つんだなと思っています。アイヌトロニカも「男女の友情もあれば、国籍も関係なく年齢も関係ない。ボーダレスな活動をして、平和な音楽をやれたらいいな」と言って相方との活動を始めたんですよ。
以前出したCDのタイトルには「ボーダーをなくせ」というアイヌ語をつけました。ボーダーを超えよう、全ての垣根をなくそう、という意味で。
いろんな方との出会いがあって今の自分がいるので、皆さんに本当に感謝しています。
DJ Ko-Taさんご夫妻との交流
mimy: Towaさんは、やはり北海道で活躍しているDJ Ko-Taさんとの交流もあると伺っています。どのような繋がりでいらっしゃるのですか?
Towa: Ko-Taさんの奥さんのFumieさんという方が、すごく昔に近所に住んでたんですよ。
Fumieさんもやはりクラブでディープハウスなどを回すDJをされていたんですけど、私もハウスが好きでFumieさんに惚れ込んじゃって、FumieさんがDJの日は絶対行っていました。それでFumieさんとお友達になったんですが、その後Fumieさんが引っ越してKo-Taさんとご結婚され、ずっと長いこと会ってなかったんです。
それが去年の暮れにうちから車で3時間くらいの帯広に来ると聞いて駆けつけて、数十年ぶりに帯広のクラブで再会した時に、2人で抱き合って泣いて。すごく会いたかったんですよ。
mimy: それは時空を超えちゃいましたね。
Towa: はい。そのときにKo-Taさんとも仲良くお話しして。お二人とも素敵なご夫婦で、Fumieさんはすごい美人なんですけど全く気取りのない方なんです。
それでもうずっと二人で爆笑しながら話して、Ko-Taさんの素晴らしいDJプレイも見られたし、満足して帰ったんですよね。
mimy: 充実してますね!笑
Towa: 音楽を通じてずっと続いてる友情があるのは、すごく幸せなことですよね。
mimy: 本当ですね。そして、Towaさんの世界がどんどん広がっていってる感じもします。
そうやって人と繋がることによって、また新しい相互作用が生まれていっていることを、今お話を聞いて感じました。
Towaさんの今後の音楽活動について
mimy: 今後はどんな活動を予定していらっしゃいますか?
Towa: 自分自身も病気を患い、一緒に組んでいた相方も脳梗塞になった経緯があるので、ここ6年ほどは「あとどれくらい寿命があるだろう、じゃあやりたいことやろう」とせっかちになってしまい、150BPMくらいの速さ感覚で生きてきたんですよ。
以前はいろんなことを一辺に取り込もうとすごく焦っていて、「そこまで焦らなくていいでしょ」って周りから言われたこともあったんです。「どうしてそんなに生き急ぐの」みたいな。
でも、今年からは自分のペースを緩めてゆっくりやっていけたら良いなと思ってます。人間の心拍数くらいの70〜80BPMくらいで、緩やかに。
mimy: なるほど、そうなんですね。
今年はTakuya Yamashitaさんたちとのコラボレーションから始まっていましたが、今後他の方と一緒に活動をすることはありますか?
Towa: 周りの皆さんが素晴らしい方ばかりなので、声をかけていただけたらいろんな方と一緒に活動したいなとは思っています。
学ばせてもらうことばかりで、本当にありがたいことです。これからも周りの皆さんの助けを借りて、ゆっくり進んでいけたら嬉しいですね。

Towa: 今年は相方と一緒にトンコリ教室などもやっていこうかなと思っています。
これまでも老人ホームに慰問に行ったり、あとはトンコリを広めたくて、網走の北方民族博物館の方から声をかけてもらい、私が作った電子音楽に合わせてトンコリを自由に弾こうというワークショップをやったりしたんです。
mimy: ああ、すごく面白そうですね!
Towa: 「北海道の四季」という曲を4曲作って。春はタンチョウヅルの鳴き声という感じで、四季の動物たちの曲をみんなで一曲ずつ演奏して、最後は自由に弾きましょうという感じでやったんですよ。それがすごく楽しかったんですよね。
で、そのトンコリ教室もやっぱり大人の方がやりたいっていうリクエストも多くて。その時はちょうどコロナ禍だったので、大人の方には後ろで見てもらい子供さんだけでやったんですけど、その場のライブ感というか、みんな初めて触る楽器で楽しんでいるのを見て私も楽しかったので、またやらせてもらえたらなと思っています。
Towa: あとは、香港に住んでたことがあったので、まだ時期は決まってないんですけど今度香港でちょっとやりたいなと考えています。
mimy: ワールドワイドな展開!
これからどんどん世界に出てくわけですね。
Towa: まだまだ未熟者ですけれども、これからも応援よろしくお願いいたします。
たくさん応援していただいた皆さんと、私にいろんなことを教えてくださった周りのアーティストの方に感謝しています。去年Beepに出していただけたのもすごく良い勉強になりました。まだまだ初心者で、マスタリング、レコーディングなど外注しようとした時に、「やりますよ」と助けてくださった方もいて、いろいろ教えていただきお世話になり感謝しています。去年は勉強の一年でした。
mimy: では、その学ばれたことを更に深めつつゆっくりとした時の中で落とし込んで、Towaさんのいろんな世界を音としてまたもっと聴かせていただけるということを期待しています!
Towa: ありがとうございます。

Takuya Yamashita, Towa Ainutronica, Kei How, Pessaelectro