このサントラ、ちょっとレア。第48回 映像と音楽が独立するアンビエント効果を考える件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』ハルが近づきこういうときこそと体調管理に気をつけすぎて逆に風邪ひきがちな志田一穂がご案内させていただきます。

さて、今回はまず去年末に公開され、ひそかに話題を広げている映画『ジュンについて』という作品をご紹介したいのです。これ、ドキュメンタリー映画なんですね。夏葉社という書籍出版社がございまして、こちらたった一人で運営しながら自分が出したい本だけを製作し自ら出版されているという会社なのです。そしてそのたった一人というのが島田潤一郎さんという方で、その仕事の模様やご家族との生活風景、さらにはどうしてそのようなスタイルで出版を始め、続けていらっしゃるのか、というルーツまでも淡々と映像ドキュメントとして紡いだ作品が、この『ジュンについて』なのです。

で、志田はこの映画を劇場にて拝見したのですが、実は特に予備知識もなく、タイミングがあった時間にお目当ての劇場でやっていたのがたまたま本作だったという。だから何も考えず、ネットで数行の解説文をみて、お、ドキュメンタリーか、たった一人の出版社、書籍業界のこととかまったく知らないから、まぁいろいろ勉強になったりちょっとした発見もあるかも?というくらいの気持ち観に行ったわけです。するとですね、二時間ばかりのこの作品、なんというか完全に(今風に言えば)没入してしまったんですね。なんだこれはと。気づいたら映画の主人公である島田さんの日常にぐいぐい引き込まれていってしまってまして。しかも観終わったあとに監督の田野隆太郎氏も登場してちょっとしたトークコーナーまでありまして、聞けばこの田野監督もたった一人でこの作品を配給しているという。え?一人で?監督自身が?と、もうなんだなんだという感じで、この作品の他にはない個性に取り込まれていったわけです。

ここまで読んでいただいて、単なるドキュメンタリー映画になんでそんなに…、とお思いでしょうが、一応不肖志田、これでも結構ドキュメンタリー好きでして、要するに事実は小説よりも…的なノンフィクション系支持派だったりするんですね。ドキュメンタリーものはもちろん、実話の実写化系も大好物で、やっぱり本当にあったことの映画化って気合と迫力とメッセージが段違いにくるというか。だから特にドキュメンタリー作品っていろいろと比較しながら観ちゃうもんで、ダメなものはたとえイイ題材でもダメ!という烙印を押してしまうときがたまにあったりするのです。

たぶんまた映画バカが何を言ってるんだ全然意味がわからん、とお思いでしょうが、具体的にいいますとですね、ドキュメンタリー作品って、実際デジタルの時代に突入してからめちゃくちゃ増えたんですよ。デジタルカメラで撮り放題になって、素材はパソコンで編集できちゃうし、仕上げまで完全にセルフで出来てしまうと。それまでは映画は基本フィルム撮影。長々とその対象を追い続けるドキュメンタリー作品にとって、テレビのビデオ撮影とはまったく違う手間と予算がかかるためとてもリスキーな映画ジャンルだったんですね。だけどデジタル時代になってそれらはすべてフレキシブルとなり解消されたのです。逆に一番手頃に映画が作れるジャンルになったと言っても過言ではありません。そうして多くのドキュメンタリー映画が観られるようになったので、それはそれでいいのですが、当然クオリティーの優劣の差も感じてきてしまうのです。インタビューされている人の映像ばかりで眠くなる…。テロップが多すぎて情報過多、うるさい…。編集に凝りすぎて構成が目まぐるしい、そんな演出いらない…。たくさんの資料素材を揃えてきたのはいいけどイメージばかりで無駄遣いにしか思えない…、などなど…。

特に音楽もののドキュメンタリーなどはミュージック・クリップ的な作り方が多いので、観ていて楽しいと言えば楽しいのですが、映画的には「別にこれテレビの特番でやればいいじゃん」と言いたくなるくらい、非映画的だとも思ってしまうのです。今回紹介している『ジュンについて』という作品は、実はそれらと完全に真逆を行く作品で、とてもとても新鮮、かつ過剰な説明もないしインタビュー映像もないし解説ナレーションもないと。なので、そのシンプルさが自然と世界観に入っていける一番の原因なのではないかとも思うのです。もちろん島田さんというたった一人の編集者であり出版社代表の人生観や本に対する視点、人生に対する考え方もたくさんのメッセージとして伝わってくるのですが、それに併せて田野監督も一人で映画と対峙するというスタンス、そっちのインパクトもまた強く、観た後少しの間は、なんだったんだあの映画は…とぼんやりすることもあったのですね。

で、ふと一つの重要なことに気づいたのです。「音楽、鳴ってたっけ?」と。あれ?この映画って音楽あった?なかったよな。いや、なんか鳴ってたな。エンディングで歌も流れたけど、あれは別として、本編中なんか鳴ってた気がするが…。でもどんなだった?ホントにあった?鳴ってた音楽?と、やばい、いつもサントラのことをグダグダ言ってる立場だというのに、この映画の音楽についてはまったく反応出来ていなかったぞと、一気に反省モードになってしまったのです。

一応確認のために劇場で購入したパンフレットを確認してみると、あ、音楽クレジットあった…と。そうか音楽鳴ってたか、鳴ってたな、うん確かに鳴っていた!と再認識。それほどまでに映像と一体化し、言い方を変えるとそれほどまでに存在を消していた音楽とは。志田としては俄然そっちに興味が向いて行ってしまったので、思わずパンフレットに記載されているメアドに連絡してしまったんですね。映画音楽番組をやっているので、サントラ音源があれば提供していただけないかと。それを使用して作品も紹介したいのだと。すると田野監督自身から応答があり、ちゃんと音源が聴けるサイトを紹介していただいたのです。

音楽を担当したのはmangneng(マンネンと読む)さんというスティールパン奏者の方で、併せて鍵盤から弦楽器までも演奏されるマルチなミュージシャンな方。いただいたサイトの音源を改めてお聴きしたのですが、そうだこの曲この音色、鳴ってた!鳴ってたな!となったのですね。記憶が脳内を駆け巡るというのはこういうことかと言えるくらいのメモリー・ターンバック状態でした。ではなぜそれほどまでに存在が希薄だったのかというと、それはやはりこのスティールパンの果てしないエコーのように響くサウンドと、最小限の楽器によるフォローが、前述した映像のシンプルさと見事にマッチしていた一体感によるものだからではないかと。それほどまでにたとえ映像と音楽が独立していても、その環境性が等しければナチュラルなアンビエント効果を発生させる、そんな現象こそがこの『ジュンについて』という映画の中には生まれているのではないかと考えるわけです。

だけどスティールパンのイメージってお祭りとかの屋外で皆してドンガドンガと合奏している海外のアレだったりするんですが、mangnengさんの演奏は単体でのプレイで、本当に静かで優しくて、いわゆる癒しのサウンド、その極みなんですね(先日の上映イベントでもそのような演奏をご披露。志田もトークゲストに呼んでいただきました)。

アンビエント・ミュージックってブライアン・イーノによる楽曲の基本構成を崩したインプロヴィゼーション的なものが主流と思われてますが、mangnengさんの楽曲たちはそれらとはちょっと違って、メロディー・ラインもあったり、楽曲の構成も形成されているので、アンビエント・テイストを兼ね備えたリラクシン・ミュージックとも言えるのです。だけどそれはあくまで楽曲だけ、普通に聴いているときの話しで、これが不思議と映像と合わせて観ると、一気にアンビエント=環境的になるという。志田としてはそれこそが重要なポイントだと感じているのですね。

映像の視覚情報の強度ってかなりのものがあると思ってまして、そこに没入しているとテレビドラマであっても音楽=BGMはその影響で環境音化されていくのです。つまり、音楽が気にならない状態=映像との一体化、になると。映画『ジュンについて』はその融合体であると捉えてまして、その後、やりとりさせていただくようになった田野監督に聞いてみると、音楽に対してもルールを作っていたとのことで、それは、島田さんが喋ったりしているところには音楽は乗せない、ということだと言うんです。え?じゃあ音楽って独立して鳴っていた?と、志田は再び驚かされたのですが、その後さらに二回ほど映画を観る機会があったので、今度はいちいち確認しながら音楽を聴いて(映画を観て)いたところ、ホントだ…、こんなに音楽だけ鳴ってるシーンがあった…と、愕然としたのです。初見ではなんで気がつかなかったのだろう。いや、なんで気にならなかったのだろう…、と言う方が正しいのですが、まぁそれぐらい自然な流れに溶け込んでジュン・ワールドの一員になっていたのだなぁと思ったりいたしました。

アンビエント・サウンドについては、優先順位は高くないのですが物凄く興味があって、それは相似しているノイズ・ミュージック、ノイズ・サウンドにも共通しておりまして、どうしてそこに興味が向くのかというと、やっぱりそうした特殊的とも言える音楽ジャンルこそ、映画のトラックとして活用された場合どのような連鎖反応が起こるのか、それが気になるからだと思っています。実際そうした作品も多々ありますし、分析していくと名のある映画音楽家の方々もかなりそうした現代音楽をベースに持ちながら、映画とさまざまな実験的格闘を繰り広げているなと。映画自体があらゆるジャンルによって太陽系のようなリングを回転させているように、音楽も然り、ゆえに映画音楽もその枝葉の広がりは然り、なわけですね。まだまだそうした終わりなき、答えなき探求は、少しずつでも続けていきたいと思っています。

では、また隔週金曜カッキンで…。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週金曜23時からOA中。是非聴いてくださいね!

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