Wer Blickt In Einen Abgrund / mimy

ここ最近はトラックメーカー以外の活動が多くあまり曲を作れていませんでしたが、2022年初頭から2年弱の期間に制作した楽曲のうちのいくつかを一つのEPとしてまとめました。
Oyoda Recordingsから「Travel Around The Fantastic 4D Space」と名付けたアルバムをリリースして以降自分の中でひとつの達成感があり、特にどこかのレーベルに自分の曲のデモを送る熱もなんとなく薄れてしまったのですが、せっかく作った曲たちをそのまま放っておくのももったいない気がしてきたので、今回はBandcampでセルフリリースという形で世に出しました。
カバーアートに使っている写真とマスタリングはSinging Frog StudioのUeda Takayasu氏によるものです。

各楽曲名の由来（セルフ・ライナーノーツに代えて）

Theia (Original Mix)

EPの序曲。
ジャイアントインパクト説に従うと月は地球が生まれて間もない約45億年前に、現在の火星と同じくらいのサイズの天体と地球が衝突して誕生したと言われています。その地球と衝突した仮説上の天体には、ギリシャ神話に登場する月の女神セレネの母テイアの名前が付けられました。
私の作品にはいくつか月にまつわる名前の楽曲（「Izayoi」、「The Moon Is A Harsh Mistress」、「Blue Moon」）がありますが、今回の曲も特に意識したわけではないのに期せずして月に関連する楽曲名になってしまいました。

Wer Blickt In Einen Abgrund (Mimy Smooth Mix)

この「深淵を覗く者」という曲名は言わずと知れたニーチェの言葉「wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein（深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ）」から取っています。
パートナーとの他愛のない会話の中で、私は時々かなりふざけてこのフレーズを口にすることがあるんですが、元々は楽曲制作を始めたばかりの頃に全然違う曲名で作った曲を最近自分でリミックスした作品です。
EPにまとめるとき、オリジナルの曲のほうは他の作品と曲調が合わなかったのでこのリミックスのみを入れることにしました。気が向いたらそのうちオリジナルのほうもセルフリリースするかもしれません。

Earendel (Original Mix)

ハッブル宇宙望遠鏡が2022年に見つけた宇宙の初期の頃の原始的な恒星。その光は129億年かけて地球に届いたもので、宇宙誕生から9億年しか経過していない頃に生まれた星のものです。
この星には、古英語の「明けの明星」「昇りくる光」を意味する言葉にちなんで「エアレンデル」という名前がつけられました。「指輪物語」の作者J.R.R.トールキンの作品にも同じくこの古英語に由来する名の登場人物が出てくるそうです。
通常このように宇宙初期の遠方の星を観測することはあまりにも難しいのですが、巨大質量を持つ銀河の重力レンズ効果によりエアレンデルは発見されました。エアレンデルを見るというのは、まさに時空の深淵を覗く行為なのです。

Planet Nine (Original Mix)

「プラネット・ナイン（第九惑星）」とは太陽系外縁部に存在するとされる仮説上の天体の呼称です。太陽系遠方の他の惑星の軌道は予測よりずれているらしいのですが、太陽系外縁部に巨大質量惑星があると仮定するとそのずれをうまく説明できるというのでプラネット・ナインの存在が提唱されています。
プラネット・ナインは太陽の光の反射を観測ことすら難しいくらい遠方に位置するとされており、現時点では未だ発見されていません。

Markarian’s Chain (Original Mix)

「マルカリアン・チェーン（マルカリアンの鎖）」は、私たちのいる地球から宇宙単位で見ると近い距離にあるおとめ座銀河団の一部である線状に配置した銀河の集団です。地球から見ると銀河が滑らかな弧を描くように連なって見えるのでこの名前が付けられましたが、もちろん現実の鎖のことではありません。
このEPに収録した他の楽曲には、仮説上の天体や重力レンズの力を借りないと観測の難しい天体の名前を付けていますが、マルカリアン・チェーンはおとめ座銀河団の中心付近に位置しており、中型以上のサイズの望遠鏡があれば、深淵を覗いた先に自分の目でその美しい姿を観測することができます。