レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』今回はサブ・タイトル通りでございますね。不肖・志田一穂がご案内させていただきます。

志田の映画音楽ラジオ番組「seaside theatre」でも先週OAして追悼させていただきましたが、映画監督の長谷川和彦さんがお亡くなりになったということで、彼の代表作、まぁ代表作と言っても2作のみしか監督していないので全作紹介となるわけですけど、その2作、『青春の殺人者』(1976)そして『太陽を盗んだ男』(1979)、今回はこちらもテキスト化することにより、追悼したいと思うのです。

まずは『青春の殺人者』。水谷豊と原田美枝子の共演作にして長谷川和彦監督デビュー作ということで大いに期待された作品であったと言われていたそうで。そしてその期待を裏切らず、本作は日本映画史に残る傑作として語り継がれていくことになったのですね。実際に起こった親殺し殺人事件をベースに、長谷川監督が際どさ炸裂な演出で撮りあげたからこそなわけですが、意外にもこのエッジが尖った作品の音楽を、当時結成したてのゴダイゴが担当したんですね。

ゴダイゴはコロムビアレコードの洋楽セクションからリリースされた唯一の日本のバンドで、それだけでとても希少な存在のバンドであったわけですが、スタイルもプログレッシブ・サウンドを盛り込んだ洋楽テイストで、当時既に注目を浴びていたグループでした。そんな彼らの音楽に注目した長谷川監督が、彼らのデビューアルバム『新創世記』(1976)から数曲をこの映画に引用したわけでして、だから音楽担当というより音楽使用といった方が正しいかも。とは言えそうと決まったらゴダイゴ・サイドもしっかりと映画に使われる用に録音し直したり、英語詞ボーカルは使えないかもと言われたら絶対に使ってほしいと、現場にいる監督に(タケカワユキヒデ自身が)直談判しに行ったりと、結果的にはたとえ音楽使用として動きだしたにも関わらず、しっかりとしたタッグによってゴダイゴの映画音楽が再生されていったのでした。そしてそれら映像と楽曲が非常に良き化学反応を起こし、実際、最初からこの映画のために作られたかのようなサウンドトラックとなっていったわけですね。(もちろん英語詞もそのまま使用された)

で、この楽曲たち。中でもボーカル、タケカワユキヒデの歌声が淡く響く「想い出を君に託そう(IF YOU ARE PASSING BY THAT WAY)」や「憩いのひと時(IT’S GOOD TO BE HOME AGAIN)」といった楽曲は、それぞれが映画のオープニングとエンディングで効果的に鳴り響き、どちらも本作で人生を疾走し続ける順(水谷)とケイ子(原田)のためのテーマ曲と言えるほどの素晴らしいメッセージソングなのです。さらにはサイケデリックなインストゥルメンタル、まるでその後の「西遊記」サントラの予兆をも感じる「マジック・ペインティング」も同アルバムに収録されていたので、後半の見せ場へここぞとばかりに使われました。2010年、遂にこのサウンドトラックが正式リリースとなったので、今はCDでも楽しめることができますので、初期ゴダイゴサウンドとともに、本作を是非。

そしてその3年後、長谷川監督がついに第二作目「太陽を盗んだ男」を発表します。沢田研二演じる中学校の理科教師、城戸誠が、自身でも核爆弾が作れると言う野望を持ち、本当にそれを実現させてしまうという、かなり危険な思想満載のアクション・エンターテイメントですね。しかし、原爆だのジュリーだの相手役は菅原文太だのと、話題性だけは事欠かなかったのに劇場公開時はなぜかマイノリティーのみに騒がれただけで興行は振るわず。それこそ観客はジュリーファンのみだったと都市伝説的に語り継がれる始末。だけど時代が変わっていき、本作がビデオになったりレンタルできたりDVDになったりすると、かつての評価を超越し、新世代映画マニアたちから持て囃され、本作は文字通りカルト化していき多くのフォロワーを産んで、日本映画界になくてはならない存在として伝説化していったわけです。

で、本作の音楽は元スパイダースのギタリスト、井上堯之が担当。この1979年という時代は、前述した『青春の殺人者』と同じように時代はアーリー80s、ポップでハイセンスなインストゥルメンタル・ブームで、シーサイドに似合う洋楽曲は勝手にAORと呼ばれ(海外ではそんなジャンルない)、フュージョン・バンドも人気を得たりと、井上もそんな時代性が奏でるサウンドをいち早く楽曲へと取り入れて、それらを存分にちりばめたのでした。

しかも本作の各楽曲には表情や性格がとてもよく見て取れ、その楽曲を聞くと自然とそのシーンの映像が脳裏に浮かんでくるほどのベストマッチングだったりするのです。まさにこの作品『太陽を盗んだ男』はそんなサントラ楽曲のオンパレードで、一曲聴くたびにあのシーンだ、あのシーンでかかっていた曲だ!と、記憶をたやすく誘導されるのがとても特徴的でした。

そしてこの映画にはボブ・マーリーの「Get Up Stand Up」といったレベルソングも印象的に挿入歌として登場しており、もしかしたらこの曲の使用許諾が取れないから、ある時期なかなかソフト化されなかったのでは?と憶測が飛んだりもしていました。が、現状は円盤化においても配信化においてもしっかり権利処理されて楽しめることができているので、オリジナル版として今ちゃんと観れること、心から良かったなぁと思うわけです。なにしろ引用曲とは言え、作品に対してきちんと意味があるよう使用されているわけですからね。

さて、ここまで来ると長谷川監督は非常に音楽にも長けた監督だったのではなかったか、と思うのですね。なるほど高校時代はテナーサックスを吹いてジャズバンドのメンバーだったこともあると。であれば、『青春の殺人者』であのようなクールでマイルドなゴダイゴのニュー・ロックサウンドを起用したこと。そして『太陽を盗んだ男』でもハリウッドマナーに乗っ取り、映像が目に浮かぶような、映像と音楽の共和を目指した作品として作り上げたことも素直にうなずけるというものです。こうした音楽の使い方ができる監督というのは、やはり個性派であるな、一癖二癖お持ちだな、と位置付けてしまいますよね。音楽に貪欲な監督って、とにかく一筋縄ではいかないので。

ちなみに、『太陽を盗んだ男』の楽曲「YAMASHITA」は庵野秀明監督の『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』(2021)の中でも流用され、当時『太陽を盗んだ男』に熱狂したファンたちは、エヴァを見てハッとさせられ、あれ?これって!これって!?と動揺させられたりもしました。まぁそう考えると庵野監督も極めて、個性派ですものね。
というわけで長谷川和彦監督、改めてご冥福をお祈りいたします。あなたの映画は素晴らしい映画音楽も含めて、これからも日本映画史に永遠と残り刻まれ続けていくと信じています。また、カッキンで…。
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