レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』寒暖差アレルギーなのか花粉なのかなんなのか、なんだかここ数日鼻炎気味ですが、原稿は粛々と書き進める孤独の分泌家、じゃなくて文筆家の志田一穂がお送りいたします。

さて今回は、来週11/14にいよいよ公開となる映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』をきっかけとして、ロックのボス、ブルース・スプリングスティーンと映画の、なかなか濃ゆい関係性について、書き綴りたいと思います。

まぁ80s育ちの志田にとってブルース(名前長いから敬称略ね)と言えば、実は「Born In The USA」(1984)というよりはやっぱり「We Are The World」(1985)なんですよね。♪ボーンインザユーエスエ~!なんてずっと繰り返し歌われても当時は全然ピンとこなくて、英語の意味もよくわかってないからうるせぇアメリカ賛歌だな、ぐらいにしか感じていなかったんですけど、そのあと「We Are The World」のブルース・パートを聴いたとき、なんちゅうロックなヤツじゃコイツは、と見直してしまったんですね。

誤解してほしくないんですが、要するにこのときの自分は中一とか中二のぼんくら丸刈り映画少年だったので、かつての名盤「Born To Run/明日なき暴走」(1975)とか「The River」(1980)とかの存在などまだ全然知るよしもなかったわけです。佐野元春は好きでビデオ『No Damage』のライブ映像なんかを観てコーフンしていたりしましたが、そこで繰り広げられているライブ・メドレーが、ブルースのライブ・パフォーマンスのパクリだなんてこともわかっていないわけですよ。ですからいきなり「Born In The USA」を聴いても、なんだよ熱くるしいな、ぐらいにしか感じなかったということですからね。決してブルース全否定ではなくて、ファースト・コンタクトがちょっと感性に合わなかったということだけですからね。(一応ファン向けに言い訳しておきます)

で、結局「We Are The World」のあのタイトルシャウトやむせび泣くような掛け合いボーカルを聴いて、やっぱりこの男は一味違うやんけ!と一気にリスペクトしてしまい、すぐに「The “Live” 1975-1985」(1986)というイサギよすぎるタイトルの3枚組ライブ盤を友人から無無理矢理借りて全ダビングし、すっかり愛聴しながら大ファンになってしまうという、ちゃっかり者にもほどがあるという感じだったわけです。
しかし問題はそのあとなんですよ。それだけロックだシャウトだ武道館だと大騒ぎしていたブルースが、突如1987年にアルバム「Tunnel Of Love」をリリースするわけです。

これがまたメロウで男泣きバラッド多めという意表を突かれたアルバムだったんですね。そして超絶カッコよかったわけです。騒ぐたけが男じゃねぇぜ的な。がなり立てるだけがロックじゃなかんべや的な。それぐらいちょっと高倉健的男は黙ってサッポロビアー的衝撃があったんです。なのでそこからは、ブルースは静かに吠えるバラッドがイイ…と再評価。結果、そのスタイルが映画との意外な親和性を生んでいくことになるという、志田としてはなんて素敵な展開なのかよと感じていくわけです。
というわけでブルースが提供する映画の主題歌たち。グッとクールに響く名曲ばかりなので紹介してまいりますね。まずは1993 年、トム・ハンクス主演の『フィラデルフィア』です。

当時エイズ・ウィルスが世界的に猛威を振い、ハリウッドがすかさずそれを題材に本作を製作。トム・ハンクスが実際に体重を落としながらエイズ患者を演じたことが絶賛されたりしていましたが、志田としてはブルースによる主題歌の方に俄然目が向いておりました。

その、悲痛の中にこそ希望があると歌う「Streets of Philadelphia」が本当に素晴らしい楽曲で、冒頭から心拍数のようなドラムのリズムが淡々と続くという、一聴すると単純なアプローチなのですが、映画の中のトム・ハンクスの鼓動と心情へじんわりシンクロしているような、当時じわじわと心に響いてきたことを憶えています。やっぱり映画の主題歌はこのようにいかにしてしっかりコラボするか、なんですよね。この楽曲「Streets of Philadelphia」はグラミー賞にて最優秀楽曲賞、最優秀男性ロック・ボーカル・パフォーマンス賞、最優秀ロック・ソング賞を受賞と、映画とともに高く評価されました。
お次は1995年のショーン・ペンとスーザン・サランドンが主演の社会派作品『デッドマン・ウォーキング』です。

死刑囚ショーン・ペンに寄り添う尼僧サランドンという、死刑撤廃論争に切り込んだ問題作であり、エイズ問題を描いた前作同様、ブルースが音楽で参加する上での確固たる信念と狙いが伝わってくるコラボレーションです。なんでもかんでもやるぜ、ではなく、これはオレだからやる、ってのが伝わってくるんですよ。まさにブルースにしか歌えない歌が、映画の中でさらに昇華していくんですよね。楽曲もずばり同名タイトル「Dead Man Walking」。

ギター弾き語りからポツリポツリと言葉を紡ぐこの歌もまた、絶望と救済を力強く訴える名曲と言えます。次第にバンドサウンドになろうとも、その抑制された叫びは「Streets of Philadelphia」と同レベルで静かに心に刺さってくるんですね。
2008年には意外なコラボレーションが実現します。ダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』。

その同名主題歌をブルースが歌ったのです。タイトル通りプロレスラーを題材にした作品ですが、本作の主演がミッキー・ロークと聞くと、え、ゼロ年代にミッキー・ローク?と誰もが眉をしかめたハズ。なるほど物語は元人気レスラーだった中年男の復活を目指すというもので、年齢を重ねた先、これから男としてどう生きていくのか、そんな人生感がテーマだったりするわけですね。そこになんと主演のミッキー・ローク自身がブルースに手紙と映画スクリプトを送り、熱意を伝えたところ、この書き下ろし曲「The Wrestler」が生まれたとのこと。

これまでの社会派ドラマというよりも、そもそもブルースがいつも内に秘めているヒューマニズムが、こうした熱いエールに対して強く応答したということなのでしょうね。ゼロ年代後半を迎え、いよいよブルースも60代に突入しようというタイミング。これまでよりも、さらにヒューマン・エナジーが燃え始めたのではないでしょうか。いやしかし男同士の絆、熱いッス。
最後は去年の作品、2024年の『ブルックリンでオペラを』です。

こちらはアン・ハサウェイ出演&プロデュースによる夫婦の絆を描いたロマンティック・コメディーなのですが、意外にもこんなジャンルにもブルースの歌がいちいち切なく響く…。あぁやっぱり映画コラボするブルースを見ていると彼の目線というか視線というか、やや達観気味な俯瞰体制で楽曲が生まれていくようになっているのがわかるんですよ。それぐらいこの映画の主題歌「Addicted to Romance」もまた、見事に作品を補完する傑作として仕上がっています。え、でもロマコメにブルースって?と思われるかもですが、いやいやそれが人間ブルースの、もっと言えば年齢を重ねてブルースの放出する楽曲の素直さというものです。だってこの曲、奥さんのパティ・スキャルファ(ブルースのバンドE Street Bandのメンバー)まで駆り出してデュエットしちゃってるんですからね。

これはもうブルースにとって究極のラヴソングなのです。ラヴソングこそ、真のロックじゃないかとマジで思っていますのでね。
まぁこれだけブルースが映画と関わりがあるなんて結構あまり知られていないのではと思うのですが、歴代主題歌を考察してみると男の生き様、人としての道程が、映画のテーマとともに垣間見えてとても興味深いものです。

で、最新作『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』ですね。文字通り、ブルースの自伝的映画であり、あの『ボヘミアン・ラプソディー』(2018)の製作チームが手掛けたということで、かつてのブルースの軌跡についても映像再現度ばっちりという、すべてのロックファンに贈る傑作の登場なのです。主演のブルース役を務めたジェレミー・アレン・ホワイト自信がすべての劇中歌、すなわちブルースの楽曲を歌いあげてくれているというのも見どころ、聴きどころの一つなんですよ。これがまたそっくりで!ホント、アメリカ産ミュージシャンドラマ映画ってクオリティー高すぎです。

なんでもこの作品、ブルースの最初のブレイクポイントとなったアルバム、前述した「Born To Run/明日なき暴走」によって大きな成功を手に入れたにも関わらず、その重圧から逃れるかのように、一人4トラックのレコーダーを使ってアルバム「Nebrasca」を録音すると。

そうした心の苦難を乗り越え、いよいよ「Born In The USA」の大ヒットに至る、という物語となっているそうで。だとしたらこのサブタイトル「孤独のハイウェイ」という意味もじわじわと伝わってくるというものですよね。いやはやこんな映画を生前に作られてしまったブルース・スプリングスティーン…、これから彼はさらにどこへ走り往くのか。今後もその動向、音楽も、そしてときに映画でも、見逃せませんね。
★志田の映画音楽番組、湘南ビーチFM「seaside theatre」にて、11月14日23時から、今回お伝えしたブルース・スプリングスティーンと映画について特集いたします。HPから世界中どこでも聴けますので是非聴いてみてください!湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9