レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』今年はここまで本当にドタバタ落ち着かない時間を過ごしてきましたが、最後の12月くらいはゆっくりしたいなと思っていたら結構やっぱりドタバタな志田一穂がお送りいたします。
さて今回は、まもなく12月7日が誕生日となるいぶし銀なシンガー・ソングライター、トム・ウェイツをフィーチャーしていきましょう。

実は昨日の志田の映画音楽ラジオ番組「seaside theatre」でも一部作品のサウンドトラックたちを紹介したところであります。で、リマインド的にトム・ウェイツですね。もう10代の頃から大好きなミュージシャンです。でも音楽屋さんでありながら、その特異な個性が早くから注目され、映画界でも俳優、音楽担当として多くの作品に招かれ活躍されているんですね。そんなトム・ウエイツが参加した映画たち、ご紹介していきます。
まずはやっぱり1986年のジム・ジャームッシュ監督『ダウン・バイ・ロー』ですよ。

こちらでトムは俳優として参加してまして、さらに自身の既存曲「Jockey Full Of Bourbon」を提供しております。この曲が流れるオープニングがまたカッコイイんですよ。なんてことない古びた町を移動撮影で淡々と観せていくだけのオープニング映像なんですが、そこに乗っかるトムのビートの効いた歌声。しかもあのしゃがれ声で、決して叫ばず、言ったらちょっとささやき声のような呟き声というか、そのボソボソ感がまたこの曲の魅力の一つとなっているんですね。当然ジャームッシュ監督の狙いも大したもので、映像とのマッチングも最適。このオープニングだけ観たくて、よくDVDをデッキにつっこみました。トムが俳優として本格的に長編映画に出た作品としても、それだけで大変レアな作品ですね。
本作がきっかけでこのあとのジャームッシュ作品、『ミステリー・トレイン』(1989)や『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)、そして『コーヒー&シガレッツ』(2005)などにも、やはり音楽を担当したり俳優(または声のみ)として参加したりと、なかなかの蜜月を過ごしていくことになるのです。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』のサントラ・アルバムに関してはまるまるトムによるソロ・フルアルバムと言っても良いくらい、超トムワールドが展開していましたね。ボーカル曲である新曲も3曲提供していて、特に「Good Old World」という曲はトムの真骨頂。それでいて完全にジャームッシュ映画のオフィシャル・サウンドになっているから、いかにこの二人の関係が親和性によって繋がっているかがわかるというものです。
一方『コーヒー&シガレッツ』はタバコを吸いながらコーヒーを飲んでただただダベり続けるというオムニバス映画なので、トム自身が出演しつつ(イギー・ポップと共演)、奇妙な楽曲も一曲だけ提供しているというちょっとしたレア臭漂うもの。

C-Sideという謎のバンド?ユニット?とのコラボ曲「Saw Sage」(ソーセージ…)がそれなのですが、こちらクレジットも共作となっていて、聴いてみると完全なるパーカッション・メインのインスト。しかし確かに随所でトムの雄叫びというか反射的に出ただけのボイスが聴こえてきたり。これがまた5分半の長尺曲で、まったくリスナーのことを無視した不気味な呪術的インプロヴィゼーションなのですね。
そもそもトム・ウエイツはピアノの弾き語りシンガーとしてしっとりまったりとデビューし活動してきましたが、1983年のオリジナル・アルバム「ソードフィッシュトロンボーン/Swordfishtrombones」から、一気に路線を変えて、ローファイでオルタネイティヴなサウンドメイキングを実践していくわけです。


次の作品「レイン・ドッグ/Rain Dogs」(1985)は前述した『ダウン・バイ・ロー』のテーマ曲が収録されているものですし、この頃からじわじわと楽曲自体を破壊しにかかっているようなスタンスになっていったわけです。
このサウンドたちがとても刺激的で、むしろトムを支持する人々は(もちろんジャームッシュも含めて)、こうした唯一無二のディストラクション・ミュージックを即興的かつライブ感覚で奏でてしまうトムにこそリスペクトしているのではないかと思うのです(そしてもちろん志田も)。そんなわけでジャームッシュとコラボしたトムの楽曲たちは是非聴いて体感していただきたいですね。ボーカル曲でもインプロ曲でも、結局は聴きながらトリップ必至かと思うので。
続いては、映画に提供することでその映画自体の存在感が結果的にますこととなった楽曲たち、ご紹介します。1984年の、強くたくましく生きるストリート・チルドレンたちを追った衝撃のドキュメンタリー映画『子供たちによろしく/Streetwise』にて引用されたのが「Take Care Of All My Children」です。

この曲は新曲や映画への提供曲のような既発曲などを一気にまとめたオムニバス・アルバム「オーファンズ/Orphans: Brawlers, Bawlers & Bastards」に収録されているめちゃくちゃ泣けるバラッドです。

この「オーファンズ」というアルバムが貴重なのは、オリジナル・アルバムに収録されていない映画への提供曲が他にもわんさか入っていることなんですね。例えば『デッドマン・ウォーキング』(1995)への提供曲「Walk Away」と「The Fall of Troy」、スタンダード・ナンバーのカヴァーで映画『シー・オブ・ラブ』(1989)に提供した「Sea of Love」、日本未公開作品ですが『Big Bad Love』(2001)のサントラにも「Long Way Home」という楽曲を提供(この曲は後にノラ・ジョーンズがカバー)、さらに『リバティ・ハイツ』(1999年)への提供曲「It’s Over」、『黄昏に燃えて』(1987)への提供曲「Poor Little Lamb」などなどなど。もうどんだけ映画作品からの頼まれ仕事やってたのかよと驚くやら嬉しいやらお疲れ様やらな活躍っぷり。やっぱりトムの音楽って、映画向きなのだなと実感してしまうんですよね。
さて最後に紹介したいのが1996年の『バスキア』です。

アンディ・ウォーホールに見初められた黒人画家ジャン=ミシェル・バスキアの半生を描いたこの作品には名曲「トム・トラバーツ・ブルース/Tom Traubert’s Blues (Four Sheets To The Wind In Copenhagen)」が引用されておりました。この曲はトムの初期アルバム「スモール・チェンジ/Small Change」(1976)に収録されていた楽曲で、この曲をピックアップした監督のジュリアン・シュナーベルはさすがの感性としか言いようがありません。この曲は日本でもフジテレビ開局50周年記念ドラマ『不毛地帯』(2009)のエンディング・テーマに起用されまして、正直「なんで?」とイラっとした記憶がありますが、でもそんなドラマのおかげでこの名曲を知った方々がさらに増えたのではと思うと、まぁいいかそれなら、と思ったりもしたのであります。

今でもトムの歌は暇さえあれば聴いてしまいます。映画のワンシーン、あるいは映画じゃなくても勝手に情景が浮かんでくる歌たちばかりなんですね。こうしたエモーショナルな楽曲、あるいは聴いたことのないようなパッショナブルなサウンドこそ、今の若い世代にも聴いてほしいなと思ってしまいます。好きか嫌いかの二分する試みではなく、これもまた音楽であり、少しでもなんらかの気づきを得られるものであるということ。知ってほしいことは、そうした探求心も大切なのだということなんですがね。
★志田の映画音楽番組、湘南ビーチFM「seaside theatre」、HPから世界中どこでも聴けますので是非聴いてみてください!