レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』福島は須賀川、広島は尾道、長野は松本とあっち行ったりこっち行ったりな志田一穂がお送りいたします。
さて今回は、掲題の通り、たまには真剣に近年のミュージカル映画考ということで、タイトルも絞り込みつつ論じてみたいと思っております。
そもそもミュージカル映画、減りましたよね。それはもう70年代から純粋なミュージカル映画は減っていって音楽映画というべき作品がジャンルとしては確立していたので、既にその頃からかつての踊って歌って楽しいミュージカル映画なんてほとんど無くなっていたんです。

もちろんちょこちょことはありました。70年代で言えば、渋いところで言うと『屋根の上のヴァイオリン弾き』(1971)とか『ラ・マンチャの男』(1973)といったブロードウェイ・ミュージカルからの映画化作品たちですとか。『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1973)なんかもその類いに入れてもいいでしょうね。
でも後半『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)なんかになるともうミュージカルではなくて音楽映画と言えるものかと。

要は会話の途中で突然歌い出すミュージカルならではの非日常的展開なアレではない、状況音楽と挿入歌、挿入曲扱いで次々に楽曲が流れるというアレです。マイケルとダイアナ共演の『ウィズ』(1978)という純粋ミュージカルにトライした作品もありましたが、やっぱりそういった正統派はかなり需要かなくなっていたことは確かでした。
80年年代は皆大好き『ブルース・ブラザース』(1980) から始まって、この作品が現在に至るミュージカル・スタイルの先駆け的存在ではないかと思っておりまして。

この映画は状況音楽(簡単に言うとBGMね)と心情を歌うボーカル曲が、適所に塗された良きバランスの音楽映画ではなかったかと。そもそも米国の人気バラエティー番組「サタデーナイトライブ」に登場したブルースを歌う荒くれ兄弟というコンセプト・キャラクター、ブルース・ブラザースを主役に映画化した作品でしたが、脚本を書いた兄弟の弟(役)、ダン・エイクロイドが異常なほど音楽通だったので、あれだけの濃ゆい内容になっていったわけで、だったらロックもソウルもマニアックに作りこめばそれはそれで新鮮なミュージカル=音楽映画になるだろうと、その後は踏襲していくかのようにいろいろと同ジャンル作が作られていくことになりました。
そうしたテイストで、近年かなりインパクトがあったミュージカル=音楽映画で言えば『スクール・オブ・ロック』(2003)『ヘアスプレー』(2007)『ムーラン・ルージュ』(2001)『ラ・ラ・ランド』(2017)といった作品たちでしょうか。

正統派ミュージカル演出を採用している映画たち。物語の進行を歌で表現するというアレです。
また、『ジャージー・ボーイズ』(2014)『ドリーム・ガールズ』(2007)『ボヘミアン・ラプソディー』(2018)『ロケットマン』(2019)などになると伝記ものですから、

歌うシーンが出てきて当然、みたいなものですが、今やその再現度のハイ・クオリティーさも併せて新たな音楽映画(シン・音楽映画とでも名付けようか)として、そのエリアを拡大させていますよね。『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2025)なんて最近作を観ると本当にCG技術のおかげでこんなジャンルも定着しちゃってまったくもう、みたいな気分です。
もう一つ、近年観た作品でまだまだこういう作品が出てくるのねと感心したのが『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(2023)です。

これは『チャーリーとチョコレート工場』(2005)の前日譚であり、70年代の『夢のチョコレート工場』(1971)のスピンオフ・リメイクみたいな作品なんですが、結構これがしっかりとしたミュージカル映画になっていました。しかも昔懐かしい豪華なセットで歌って踊るMGMミュージカルみたいなシークエンスが多くて、まぁもちろんそれもCGありきの世界観なんですが、CGだろうとなんであろうとちょっとノスタルジックな気分に浸れるミュージカル映画ではありましたね。
そういう意味では『ウィキッド ふたりの魔女』(2025)も見事に懐かしさを感じさせてくれる、しかし映像的にはド迫力で作りこまれた傑作ファンタジー・ミュージカルでした。

そりゃ『オズの魔法使』(1939)の世界線ですもの当然でしょと言われればそれまでですが、この21世紀中半にオズの国をやってしまうという意気込みが凄いじゃないですか。こうした流れは例のディズニー・アニメ『アナと雪の女王』(2014)や『ズートピア』(2016)、『モアナと伝説の海』(2017)にも共通していて、ファンタジーと音楽という親和性を十二分に活かした作品が技術進化によって具体化可能になった賜物たちだと感じます。
反面、いまだこの時代になっても同ジャンルの傑作が生まれないのが日本映画ですね。国産ミュージカル映画はむしろ戦前戦後まもない頃はたくさん作られていて、それこそ映画文化は歌とともにあり、だったんですが、そこから進化することもなく現在は皆無に等しいわけでして。ときどき『星くず兄弟の伝説』(1985)とか『舞妓はレディ』(2014)とか『ダンスウィズミー』(2019)なんて作品が出てきては瞬時に消えていくんですけど、これはやっぱりアレですかね、日本語だと歌でやりとりするのがちょっとこっぱずかしいというか、普通に会話すりゃいいじゃんみたいになっちゃうからですかね。

ただ音楽を効果的に使ってまるで音楽映画のように見せる日本のアニメ映画は増えたのではという印象があったりするんですね。『君の名は。』(2016)を観たときはその音楽的インパクトに圧倒されましたし、その後の新海誠監督作品には音楽=歌は一つの映画作品の個性として欠かせない存在になっていますよね。

それは洋画で言えば前述したCG技術の発達によって映像が楽曲使用シーンに対ししっかりと対応できるのと同様に、アニメーションもそもそも表現領域は無限大なわけだから、そこに楽曲(特に歌もの)が乗ればかなり相乗的威力を発揮するのではないかと。自分はそんなにアニメに詳しいわけではないので個々の作品を例に出せず恐縮なのですが、それでも『きみの声をとどけたい』(2017)や『打ち上げ花火、下から見るか 横から見るか』(2017)などの音楽との関係性には実写の日本映画と比較するとまったく違って、新鮮な視点で感じ取れるものがあります。

昨今SNSに流れてくる短く丁寧に編集された動画たちを見ていると、数秒で表現しアップしなければということもあるとは思いますが、実に日本語を縦横無尽かつ巧みにカットアップしているんですよね。それは90年代にラップを聴いたときとちょっと似ている感覚で、久々たまに「日本語って面白いな」と思わせられるというか。英語の歌ってやっぱり単語単語がスラングも含めて歯切れや区切れが良いので聴いてて心地よいじゃないですか。日本語も使いようによっては(使い方を考えれば)、実は楽しくて新しい音楽映画が作れるのではないか、なんて考えたり。まぁちょっとかなり端的ですが、このあたりまでが現状考察したところでしょうか。いや別に日本映画でミュージカル作れと言っているわけではなく、世界の映画人たちはどんどん新しいことを考えながら映画作ってますよって、なんとなくそういうことを言いたいのかも…でした。
★志田の映画音楽番組、湘南ビーチFM「seaside theatre」、HPから世界中どこでも聴けますので是非聴いてみてください!