このサントラ、ちょっと、レア。第39回  ダイアン・キートンをサントラとともに追悼する件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』今週末から名古屋~大阪~尾道とイベント&ミーティング・ツアーの志田一穂が、今回はちょっと早めにお送りいたします。

さて今回は、先日10月11日にお亡くなりになってしまいました、ダイアン・キートンを偲び、彼女の代表作たちのサウンドトラックを紹介しつつ、追悼していきたいと思います。

いや本当に悲しい出来事が突然やってきてしまいました。志田は本当にこの女優さんが大好きでして、本格的に名前が広がったりしたのは『ゴッドファーザー』(1972)だったり、ウディ・アレンの代表作たちだったりするのですが、80年代から90年代にかけて青春時代であった志田はちょっと違って、『ロンリーハート』(1986)であったり『赤ちゃんはトップレディがお好き』(1987)だったり『花嫁のパパ』シリーズ(1991~1995)だったりといった、すっかり円熟味を増したアメリカン・ウーマン、もしくはアメリカン・マミーなダイアン・キートンがとてもとても大好きなんですね。

じゃあ志田は熟女好きなのか!と言うと、別にそういうわけではなくて、ダイアン・キートンという女優は年齢を重ねていくごとに良きテイスト、良きキャラクターが形成されていって、それに見合う作品をしっかりとチョイスしてきたからこそ、本来彼女の持つ魅力が存分に引き出されることとなり、むしろ90年代から現在に至るまでの作品に登場する彼女の方が、かつての人気よりうわまっていたのではないかと。それぐらいのことを思ったりしてるのです。はてさてそんな風に彼女を振り返る日が来るなんて、本当に寂しいことなんですけどね。

で、ダイアン・キートンが女優としてデビューしたのは1970年『ふたりの誓い』という作品なんですけど、この作品の彼女に注目したのが、あのフランシス・F・コッポラ監督なんですね。その流れで彼の次作となる『ゴッドファーザー』に、ダイアンはとても重要な役で抜擢されることになります。

『ゴッドファーザー』と言えばニーノ・ロータの音楽ですが、あの名曲、愛のテーマなんてのを聴くと今後はダイアンのことも思い出してしまうと思うとさらにあの曲が切なく胸に響いてしまいます。そんな哀しみも抱きながらですが、まぁせっかくですから『ゴッドファーザー』シリーズからレアなネタを。唯一あの愛のテーマに歌詞がついたバージョンがあるんですね。しかもそれはシチリア語によって歌われまして、その歌唱シーンはパート3にて確認できます。

これがまためちゃくちゃクールで熱くてカッコ良いのです。でもこの曲はサントラ盤には収録されていないんですね。本編でしか聴けない歌なんです。いつか完全版としてサントラ収録してほしい名バージョンであります。

話しは戻りまして、実はダイアン・キートンは映画出演デビュー前にブロードウェイの舞台に立っておりました。その舞台こそが、ウディ・アレンの「Play It Again, Sam」でした。『ゴッドファーザー』で人気を得たダイアンは、同作の映画化にも誘われることになりまして、それはもちろんウディ・アレンからなんですけど、ここから公私ともにウディとの関係が続いていくことになるのですね。映画もまた、たくさん共演していきました。

ウディとダイアン、初期共演作である1972年の『ボギー!俺も男だ』では、劇中あの「As Time Goes By」が流れます。もちろんそれはかの『カサブランカ』(1942)からの引用ですが、そもそも『ボギー!俺も男だ』のボギーがハンフリー・ボガートのことですからね(日本語タイトルやってくれちゃいました)。

要するに『カサブランカ』のボギーに憧れるウディ・アレンという冴えない男のシリアス・コメディーです。しかしそこに博識高い美形のダイアン・キートンが共演、コンビとなって展開したおかげで本作は大ヒットとなり、さらにダイアンもさらなる名声を手に取ることなったわけです。まぁ「As Time Goes By」を聴くとボギーと一緒にウディの顔まで浮かんできちゃうという余計なイメージまでついちゃったんですがね。

一方、1977年のウディ監督・主演による『アニー・ホール』では、エンディングでなんとダイアンが歌声を披露してくれています。「Seems Like Old Times」ですね。

いいんですよ、ウエットなジャジー風味で。でもこちらも(ゴッドファーザー同様に)サントラ音源がないんです。ちなみにちょっと飛びますが1987年に久々ダイアンがウディ作品に登場することとなる『ラジオ・デイズ』でも、ダイアンはあの「You’d Be So Nice To Come Home To」を歌ってくれているのですが、この音源が収録された音盤もまた無いんですね。

ウディの映画にはボギー作品もそうですがとにかく引用が多いんです。スタンダードなジャズ・トリオからボーカル入りのしっとりジャズ、さらにはビッグバンド・ジャズに、現代クラシックも多々映画の中に取り入れたり。ですからサントラ盤が出ても、なんだかジャズやクラシックのコンピレーション・アルバムみたいでちょっと味気ないところもあったりします。だからこそダイアンのアダルトなジャズ・ボーカル音源も入れてほしいなぁと思ったり。でもまぁもちろんそんなコンピも休日のBGMにはお似合いではあるんですけどね。あと、是非映画本編自体を観てみてくださいませ。そうして映画の中でしかその音楽に触れることができないということも、ある意味レア度高いと言えるものですので。

ウディとの蜜月が一旦落ち着くと、ダイアンの本格的女優魂炸裂作品が続いていきます。女性教師がやがて退廃的な生活に陥っていくという役を体当たりで演じたのが、1977年の主演作『ミスター・グッドバーを探して』です。

それまでニューヨークというトレンディな都市の中でウディとウィットに富んだ会話で楽しませてくれていたダイアンが、いきなり酒に薬に溺れていく役なのでかなり衝撃でした。が、やっぱりいろいろと思うところがあったんでしょうね。女優たるものぬるま湯に浸かっているわけにはいかない的な。そういう意気込みがガンガン伝わってくる作品でした。そしてそんなハードな物語を優しく厳しく包み込んでくれるテーマ曲が、マリーナ・ショウの「Don’t Ask To Stay Until Tomorrow」です。

70年代後半特有のクロスオーバー・サウンドに乗って歌われるマリーナ・ショウのボーカルがとにかく心に響く名曲なんです。このあたり、大野雄二的シティ・グルーヴも感じられるのでDJユースにとってはかなり要チェックです。

80年代に入ると前述したように円熟期に入ったダイアンの素晴らしい作品たちが退去して押し寄せます。1984年の『リトル・ドラマー・ガール』では元女優がまさかのスパイに抜擢されパレスチナへと潜入するという難役を熱演。この作品ではジャズをフュージョンへと昇華されながらそれらを映画音楽へ大胆に盛り込み新風を吹かせていたデイヴ・グルーシンが担当しています。

とても印象的な曲が多いにも関わらず、なぜか彼のベスト盤にはなかなか入ってこないというちょっともったいないサウンドトラックです。一方1986年のジェシカ・ラング、シシー・スペイセクらと共演した『ロンリー・ハート』では、やっぱりヒューマン・ドラマがダイアンには良く似合うと納得させられる傑作。

音楽もトリュフォー作品などの音楽を手掛けていたフランス映画界からハリウッドへと進出したジョルジュ・ドルリューが担当し、作品そのものの格をあげていただいています。

さて、90年代から現代に至るまでのダイアン・キートンですが、この時期こそある意味彼女の絶頂期だと思ってまして、もともと持っていたコメディエンヌぶりがより際立つ作品に次々と恵まれ、例えばそれはキャリア・ウーマン役だったり(『赤ちゃんはトップレディがお好き』)、あるいは母親役だったり(『花嫁のパパ』シリーズ)、さらにはバツイチ役とかおひとり様役だったり(これはいろいろある)、とにかくそのコミカルでキュートな演技でリバイバル的に人気急上昇になっていった時期がまさにこの頃だったのではと思っています。

そんな時期の作品で特筆すべきはやはり『花嫁のパパ』シリーズ(全2作)でしょうか。

1950年の同名作品リメイクであるこの『花嫁のパパ』(1991)。ダイアンはここで二児の母親役、しかも長女が結婚するということで、パパ(スティーブ・マーティン)は大混乱、家庭内もてんやわんやになっていくというコメディーの傑作です。このパート1で無事結婚式も挙げられめでたしめでたし、と思いきや、続編『花嫁のパパ2』(1995)ではダイアンも一緒に妊娠してしまい、同じタイミングで身籠った長女と一緒になってお産騒動という、予想を越えたシチュエーションで大変笑えて楽しめる仕上がりに。でもそんな母親役、ダイアンの類まれなるキャラでないと成立できなかったくらい、重要なポジションなんですよね。

アメリカを代表するオープン・マインドなママ。誰よりも夫をたてるけれども、自分自身の考えもしっかり持って家族を夫以上に支えなきゃと頑張るママ。しかもオシャレで、ユニークで、可愛くて、ちょっとドジ。これぞ米国産映画になくてはならない、そして世界中にアピールしても愛される役柄=女優ではないでしょうか。ダイアンはそのスタンスをようやく80年代以降に手に入れた、他に例を見ない女優であると感じているのです。

で、そのサウンドトラックですが、そんなダイアンにぴったりな楽曲たちがこの『花嫁のパパ』シリーズには詰まっているんですね。本シリーズの音楽を担当したのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1984)で一躍時の人となったアラン・シルヴェストリです。

いわゆる結婚式マーチをベースにした楽曲たちのアレンジの妙はどれも抜群で、この方の十八番は、雰囲気BGMではない、何よりもしっかりとしたメロディーラインが際立つ「歌」のようなインスト楽曲たちなので、サントラ盤を聴いていても、ずっとアーティストのフル・アルバムを聴いているかのようなバリエーションとグッド・メロディーなのです。そこにスティーブ・タイレルという、「え、誰?」と思わずつぶやいてしまうシンガーの挿入曲「The Way You Look Tonight」が登場します。これがまた古き良きアメリカン・スタンダード・ナンバーでグッとくるのですね。この歌のバックにダイアンの笑顔が被った日にはもう本当に感動ものです。

スティーブ・タイレルはもともと音楽プロデューサーでしたが本作で歌声を披露し絶賛され、パート2でもオープニング曲「Give Me The Simple Life」を歌ってまたまた高評価。遅まきながら1999年、50歳でシンガー・デビュー・アルバムをリリースするという異色のボーカリストなんです。その歌声、半世紀経って得たイブシ銀のその声が、意外なキャリアを納得させてくれるから、人生ってわかんないものですよね。とにかくシブい。カッコいい。そんな声で歌いたい。そう思わせるスティーブ・タイレルの名曲たちです。

ちなみにその後、ダイアンがジャック・ニコルソンと初共演した話題作『恋愛適齢期』(2003)でも、スティーヴ・タイレルの歌唱曲「I’ve Got a Crush on You」が使用されました。

ダイアンは本作でゴールデングローブ賞 主演女優賞を受賞し、ジャック・ニコルソンもあの「La Vie en Rose」を歌って劇中こちらも渋めの歌声を披露してくれております。ダイアンにはそんな古き良きスタンダード・ナンバーが本当によく似合うんですよね。

というわけで、今回は先ごろ急逝されたダイアン・キートンを追悼して彼女の代表作たちのサウンドトラックたちをご紹介してみました。これらの楽曲たちは10月24日23時からの湘南ビーチFM「seaside theatre」にてほぼ聴いていただけることになっています(だから今回はちょっと早めのアップでした)。つまりコラボです。たまには、と思い、ダイアンの力を借りてしっかり連動いたしました。是非このコラムとあわせてお聴きいただけると幸いです。

★志田の映画音楽番組、湘南ビーチFM「seaside theatre」。10月24日23時から「追悼 ダイアン・キートン」。HPから世界中どこでも聴けます。

湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9

いやしかし本当にサミシイ。アル・パチーノもウディ・アレンも、ウォーレン・ビューティーも、皆彼女のことを心から愛しておりました。もちろんファンの皆さんも同じだったのではないでしょうか。ダイアン・キートンさん、どうか安らかに。謹んでご冥福をお祈りいたします。