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このサントラ、ちょっと、レア。第23回 今年のアカデミー賞作曲賞作品たちを聴いてみた件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』 4/24に青春小説の新刊出します、志田一穂がご案内します。

さて、毎年恒例米国アカデミー賞授賞式が先日執り行われました。皆々様におかれましては、各受賞作品を確認された上で、じゃあアレ観てみるか、とか、であればコレ観よう、なんていそいそと劇場へ足を運ばれた方、既に結構いらっしゃるんじゃないでしょうか。え?もはや劇場なんて行かない?どうせすぐにアマプラとかU-NEXTでやるだろうって?まぁそうかもしれませんが、とりあえず一言言っておきますとね、今回の主要部門受賞作たちは確実に劇場で観た方が良いですよ。作品内容の良し悪しはそれぞれかもですが、とにかくサウンド・メイキングが凄まじい作品ばかりなので。劇場の、シネコンであればせめてドルビーアトモスぐらいで体感してほしいですねぇ。え?アトモスなんて知らねぇ?まぁそうかもしれませんが、シネコン座席をスマホでリザーブするときちょっと気をつけてそれ選択してみてくださいよ。同じドルビーステレオよりもガッツリ音響体験出来ますから。

なんだかしょっぱなから理屈ばかりですみません。今回はそのアカデミー賞受賞作の音楽=サウンドトラックについてです。去年は「オッペンハイマー」が作品賞や監督賞をはじめ7部門を総ナメし、作曲賞も音楽を担当したルドウィグ・ゴランソンが受賞しました。

ゴランソンは既に2018年の「ブラックパンサー」でアフリカ音楽の独特なテイストを取り込んだ意欲的かつ印象的なメロディー楽曲の数々で初のアカデミー賞作曲賞を受賞しているのですが、二度目の受賞作「オッペンハイマー」の楽曲についてはまったくアプローチが変わっていて、よりアンビエントで、よりドローンなサウンドが繰り広げられており、ここ数年で映画の音楽の存在自体が如実に変化していきつつあることが伺えるのです。

2020年「ジョーカー」のヒドゥル・グドナドッティルによる不気味で底辺を這うような弦楽器サウンドや、2021年には「ソウルフル・ワールド」のアッティカ・ロスとトレント・レズナーという、ナイン・インチ・ネイルズからのコンビでインダストリアル・サウンドなどが受賞するという、映画音楽の流れの変化というものを具体的に感じさせ始めたのがこの2020年代ではないかという私的分析なのですが、するとやっぱり今年も、そういった新機軸のサウンドトラックが注視されたようで、またそれが受賞へと繋がっていったのでありました。

今年度の作曲賞受賞作は「ブルータリスト」です。音楽はダニエル・ブルームバーグというアーティストです。

というか、誰なんでしょうか?と思って調べてみたらイギリスのロックバンド、ケイジャン・ダンス・パーティやヤックのフロントだった方とのこと。と言われてもなかなかそれらも知らない。まさしくそんなインディーズ・バンドなので、つまりはこの映画界ではお初にお目にかかる人物なのでした。だからこそその受賞にも話題騒然となったのですね。

しかしこの「ブルータリスト」のサントラ、何が凄いって前述したようにそのサウンドの迫力です。オーケストラとエレクトリック・ブラスの組み合わせによってその音圧を容赦なくぶつけてくる

しかもアレンジが極めてエキセントリックで、ときに実験的、ときにミニマルで、全体が複雑な幾何学のようで、まったく解けない方程式のような楽曲オンパレードなのです。永遠と続くこの方程式サウンドははっきり言って癖になります。ミニマルです。遂にアカデミー賞にもこのような、新たな波が押しては引きつつの、スティーヴ・ライヒ的サウンドまで鳴り始めてしまいました。ずっと続いていてくれればいいのにと思わせる、不可思議で新しい、次世代のためのリラクシン・ミュージック。そんなサウンドトラックが「ブルータリスト」の音楽なのです。

さて、今年の作曲賞ノミネート作はとてもバラエティーに富んでいて、それでも聴いているととても惹き込まれる作品ばかり。これらも紹介していきたいと思います。

「教皇選挙」

音楽はドイツ出身のピアニスト、フォルカー・ベルテルマンで、こちらはバーナード・ハーマンがヒッチコックの「サイコ」で実践したような、少ない弦楽器チームでさまざまな不協和音をアタックさせ、それらをクラシック・テイストでしっかりとまとめあげているという離れ業が随所で楽しめます。シンプルにして全体的になかなかパンチのある楽曲たちばかり。それにしても最近「関心領域」とか、四文字の漢字だけで妙に不安を煽る作品が目につきますね(関係ないですが)。

「エミリア・ペレス」

ミュージカル作品というだけあって音楽への力の入れ方は他作品とは段違い。音楽を担当した一人がフランスのポップ・アーティスト、カミーユというのもなるほどと思ったところ。彼女の楽曲は「レミーのおいしいレストラン」主題歌でその個性的な楽曲とボーカルは認識済み。今回作曲賞は逃したものの、ラテン&ヒップホップ・チューンの「El Mal」という楽曲が歌曲賞を受賞したので、会場内も結構どよめいておりました。オスカーを貰うために(鼻歌を)歌いながら登壇したカミーユが、いつまで経ってもその鼻歌をやめないので、あぁやっぱり変わった人だなと(笑)。でもだからこそ「エミリア・ペレス」は変化自在、アグレッシヴで唯一無二な楽曲たちが揃ったのだなと感じました。

「ウィキッド ふたりの魔女」

何はなくとも主役シンシア・エリヴォと、がりがりに瘦せてしまってなんだか最近は見ていて痛々しいアリアナ・グランデの二人の存在感ですね。授賞式ではオープニング・アクトで登場し、その素晴らしい歌声をダブル・ボーカルで披露してくれましたが、残念ながら楽曲に対する評価は受賞に届かずでした。しかしやはり各デュエット楽曲はどれもパーフェクトで、近年のディズニー作品で聴けるような親しみやすいボーカル曲から、激しい台詞の掛け合いによるミュージカル・シーンの楽曲まで、聴きごたえは抜群です。しかしゴスペル・シンガーのようなシンシア・エリヴォのボーカル。次世代の「天使にラブソングを…」候補でしょうかね。

「野生の島のロズ」

マレン・モリスによる主題歌もシンプルなライトメロウ・ソングで気持ちがいいのですが、なんと言っても音楽担当のクリス・バワーズが奏でるアニメ作品ならではの飛び跳ねていくポップセンスな音楽がとてもイイんですね。これはですねぇ、結構というか、かなりジブリ作品の久石譲的アプローチを意識している感じなんですよ。聴いていると思い起こされます。「ラピュタ」「魔女宅」「豚」…。それぐらいアニメーション・サウンドトラックとして確立されているわけですが、でもクリス・パワーズと言ったらやっぱりあのジャジー&クールな「グリーンブック」なんです。

今回クリスは随分と飛躍した作品のオファーを受けたものだと驚きましたが、これがどうしてなかなかという完成度。まさに聴いているだけで映画をもう一度観ている感じ。抑揚ハンパなしです。

アニメ作品で思い出したついでにオマケなのですが、今回のアカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞した「Flow」も見逃せない、いや、聴き逃せない作品です。

正直今回の全ノミネート作品の中で、映像も音楽もすべてにおいて一押しだったのがこのラトビアで製作されたアニメ映画「Flow」なのです。いつか遠い未来の地球で生き残った動物たち、主人公は可愛い黒猫の冒険譚。台詞なし。だって動物しかでてこないから。だから音楽も重要なのですね。監督のギンツ・ジルバロディスが自ら音楽も手がけているのでそれも要注目。まさに本日、3月14日から公開じゃないですか。お薦めです。

というわけで今回は珍しく様々なアカデミー賞作曲賞に関わった作品群を紹介してみました。要するにこれって、今一番新しい映画音楽ってことなので、新しすぎてちょっとレア…というところでしょうか。楽曲群はすべてサブスクで聴けるので、ご試聴してみるのも新鮮で良いかもしれません。

では次回もカッキンで。

志田の映画音楽番組、湘南ビーチFM「seaside theatre」もよろしくです!

湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9

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