このサントラ、ちょっとレア。第5回 スティングの知られざるサントラ稼業な件

自分は80年代リアルタイムなので洋楽ロックで言えばザ・ポリスというよりはスティングのソロ派なんですね。いきなりなんだよという感じですが、今回はそのスティングと映画との関わりについて考察しつつ、そこからレア・サントラをほじくり出していこうと思っているのです。

最初にスティングと映画というものを意識したのは『ブライド』(1985)という作品。これは『フラッシュダンス』(1983)のジェニファー・ビールスとスティングのW主演によるフランケンシュタインもので、作品自体は別にどうということもないのですが、志田が注目したのはこの作品の世界観をベースにして作られたミュージック・ビデオの方なんです。それがスティングの1stソロアルバム「ブルータートルの夢」(1985)収録のFortress Around Your HeartのMVで、これを観たときスティングって人は俳優でもありロックの人なのか、しかもあのザ・ポリスの人だったんじゃんとようやくしっかり認識したわけですね。80sに青春時代送っているってことはそんなノリなんです。

で、その後はスティングが新譜を出せば買う、来日すればちゃんと行く、映画の音楽を手がけたと聞けば一応はチェックする、という付き合い方を続けてきたわけですけど、あるとき大好きなリュック・ベッソン監督の新作を観に行ったら、いきなりエンディングで、彼の歌、Shape Of My Heartが流れてきたじゃないですか。まぁそれがあの『レオン』(1994)だったわけなんですが、もうこの曲が流れたところで、劇中一人残されたマチルダちゃんに感情移入したお客さんたちが、ほぼ全員号泣の嵐になったりして、それぐらいマッチしてしまったこの曲は、それからというもの完全にレオンのサントラになってしまったわけですね。でもこれ、別に『レオン』のために作った曲じゃないんですよ。ちょっと前に出たアルバム「テン・サマナーズ・テイル」(1993)に収録されていた既成曲なんです。しかもこの年、1993年には『スリー・オブ・ハーツ』という映画でも既に使われているんです。などということも認識していたため、マチルダごめん俺全然泣けなかったの…。はい、面倒くさいスティングファンかつ映画バカのいらんツッコミでございました。

なので言ってみればこのレオン号泣ソングは逆レア・サントラとも称することができるかなと。気がついたら、以前作った曲が映画のおかげで返り咲きヒットいただきました的な。でもこれでスティングと映画の関係を讃えようとしているわけではないんです。問題はここからです。スティングは「映画にはバラードがイイんじゃない?」と気づいたのかどうかはわかりませんが、俄然映画用にクオリティーの高いバラード曲の提供が増えていくのであります。

まず劇場で観ていてまたまた不意打ちスティングを喰らった作品が『白い嵐』(White Squall/1996)です。これは少年たちの海洋遭難ものでしかも実話。なかなか辛く切ない作品なんですが、ここでもエンディングでスティング曲がいきなり現れて、その物語を反芻させられ、さらに刹那の底へと叩き落してくれるという必殺のバラードなのです。その落涙レベルは正直『レオン』を軽く越えてます。曲はValpraiso(ヴァルパライゾ)という、実に歴史的壮大さを感じさせる楽曲で、時系列的にもこの映画のために書かれた曲であろう名曲中の名曲なのですが、なぜか公式サントラ盤には未収録なレア・サントラ曲。でも大丈夫。本人もその出来栄えを気に入っていたのでしょうか、自身のアルバム「マーキュリー・フォーリング」(1996)にはちゃんと収録されているので、そちらで雰囲気体験、バッチリできます。

こうして映画提供楽曲にはバラードを、が定番となっていくスティングですが、その中でもレア中のレアなのが『トーマス・クラウン・アフェアー』(1999)のテーマ曲The Windmills of Your Mind/風のささやき、ですね。

これも劇場で聴いて「え?この声スティングじゃない?」とまたまた動揺してしまったのですが、これ、実は映画そのものがリメイクで、オリジナルは1968年のスティーブ・マックイーン主演、『華麗なる賭け』。そこで初登場した劇中曲がこの「風のささやき」(歌はノエル・ハリソン)で、作曲は『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』の名匠 ミシェル・ルグラン。オープニングで流れ、強烈なインパクトを与えるこのテーマ曲は、その年のアカデミー賞歌曲賞を受賞したほどで、そんなテーマ曲をリメイク作品でも無視できなかったのか、スティングまで駆り出してカバーしてもらい、再びテーマ曲として起用したということなのですね。とは言え、カバーでもバラードなら歌っちゃうぞ、とやる気満々のスティング様の姿が目に浮かぶほどですが。そんなわけで、ややこしいけど興味深い。回りくどいけどかなりレア。スティングのボーカルがエレガントな本作には確かにマッチング。こちらも是非チェックのほどでございます。

では今回のオマケ。これは、当時正直ちょっと映画に対して安売りしすぎなんじゃないのスティングさん!と感じてしまった一曲、1993年の映画『デモリション・マン』のテーマ曲ですね。

ご多聞にもれず、この曲はザ・ポリス時代の同名曲をスティングがセルフ・カバーしたもので、スタローンとウェズリー・スナイプスのSFアクション映画というテイストに合わせ、バッキバキのデジタル・ビートなフューチャー・サウンドに進化させちゃっております。クール・ガイなスティングなんだから、そこまでやらなくてもいいのに~バラードじゃないし…と思ったりしましたが、でもまぁ、なんだかんだ言ってこれもカッコイイんですけどね。

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結局このコンピでほぼ網羅。スティングの映画音楽提供曲集『Sting / All The Movies』

>>>CD, Apple Music, Spotify

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします!こちらから聴いてね!(何をかけるかはお楽しみ~) 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9