このサントラ、ちょっとレア。第51回 ニーナ・シモンが歌ってくれれば映画は大丈夫な件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』最近は何かと食生活に気をつけつつ(もうトシだ)、いかに低カロリーものでお腹一杯になるかを試行錯誤している不肖・志田一穂が今回もご案内させていただきます。

さて、掲題の通り映画への引用にはもってこいと言わんばかりによく曲を耳にするニーナ・シモンについてでございます。

とにかくニーナさんの楽曲、映画に登場する機会多いです。映画を観ていて「ニーナきた!」「ニーナにおまかせ!」とニヤリなタイミング、本当に多いのです。これだけたくさん登場すると(いやこれニーナさんのせいでもなんでもないんですが)、彼女の曲さえ流しておけば雰囲気なんとかなるでしょ?と思われても仕方がないくらいでして。まぁ自分のような映画バカは人より映画を観ているからその確率が増えてそう思うんじゃないの?と言われるかもですが、とにかくいろいろ紹介して、ホントだこんなに!? と、ちょっとばかり認識しておいていただきたいのですね。

そもそもニーナさんですが天下無敵のパワフル&クールなゴスペル・シンガーで、60年代には公民権活動家、市民運動家として政治的メッセージを歌手活動とともに展開してきた、まさにこの時代を象徴するアーティストでございます。だからということもあるのでしょうか、やはり映画作品に彼女のボーカル曲を引用すると、たとえそれがカバー曲であっても、歌詞の力の数倍ニーナ・パワーがプラスされて、強力なサウンドトラックとなり、映画作品自体が引き立つほどなのですね。その中でおそらく一番使用率が高いのが名曲「Feeling Good」でしょう。

印象に残っている近作で言えば『最強のふたり』(2011)と『PERFECT DAYS』(2023)です。『最強のふたり』は、車いすの大富豪とその世話役として雇われた貧困層の介護人、ふたりの熱い友情物語です。劇中ふたりがパラグライダーのタンデムでそれぞれが大空へ舞い上がるシーンが展開されますが、そこでここぞとばかりに「Feeling Good」が流れます。

そしてヴィム・ヴェンダース監督による全編日本ロケで話題となった『PERFECT DAYS』では、主演のトイレ清掃員、役所広司が早朝車を運転して出勤していくラストシーンで、これでもかというくらいの役所のドアップ・ショットに、やはりフル・ボリュームで「Feeling Good」が流れます。

はっきり言って、両作品ともガチでハマッております。曲がいい。歌詞も刺さる。そしてあのボーカル。音楽の力がエナジー・マックスで活用され、そこには台詞も何も要らない、ニーナさんが歌っていてくれればもう大丈夫!ということがはっきりと証明されます。

ではその歌詞とはどのような内容でしょうか。『最強のふたり』はその歌詞をストレートに具現化したシーンです。パラグライダーで大空に羽ばたくあのシーン。“空を飛ぶ鳥たち、太陽、そよ風、私の気持ちが分かる?わたしの新しい夜明け、新しい日、新しい人生。いい気分よ”と歌が流れ、車いすから離れた主人公が重力に逆らって風に漂いながら自由を満喫します。それはもうハマっているわけですね。主人公たち、特に車いすから離脱して大空へ羽ばたく自由への飛翔そのものがこの歌と完全にリンクします。

一方『PERFECT DAYS』では、逆に、朝陽を浴びながら、わけもなく、だけどきっとこらえていたのだろう、涙がぽろぽろと流れてくる主人公の心情に、しっかりとニーナさんの歌声が寄り添っていきます。“新しい夜明け”という歌詞とともに、役所広司の名演もあってグサッと刺さってくる。やはり音楽と映像がガシっとハマっているわけですね。引用曲の底知れぬ威力を感じる二作品です。

2024年の『クワイエット・プレイス:DAY 1』のラストでも同様の感情を表現するかのように「Feeling Good」が登場します。これは大ヒットしたホラー映画の前日譚を描いた作品ですが、こちらはなんとなく「Feeling Good」という楽曲が生まれるきっかけになったエピソードになぞらえたような引用となっているのが興味深いです。

もともと「Feeling Good」という曲はミュージカル『The Roar Of The Greasepaint – The Smell Of The Crowd』のためにアンソニー・ニューリーとレスリー・ブリカスが1964年に作った曲で、そのイギリス公演時に出演した『黒いジャガー/アフリカ作戦』(1973)の俳優、サイ・グラントが歌った曲です。そのシークエンスとは、黒人が白人とあるゲームをしていて、黒人が白人に勝つ、という場面なのです。単なるゲームですが、黒人が白人を負かすということがどれだけ気持ち的に解放感、優越感を感じることなのかが、あの謳歌するような「Feeling Good」という曲に託されていると感じるのです。

『クワイエット・プレイス』自体はSFホラーでエイリアン・モンスターと人類との闘いの話です。無力な人間たちがそれでも諦めず自分たちの自由を求めて逃げ続けますが、最後の最後に、もう逃げるのはやめた、なぜ逃げる必要がある?終わらせるこそ自分にとっての自由なのだ、と覚悟を決めこの曲を流すわけですが、これが逆論としてオモシロイ引用で、結局勝敗の真意とは何か?ということを訴えてきているわけですね。白旗もまた勝利、それで私は本当の自由を叫ぶ、的な。

映画の音楽効果というものはこうした逆説的演出にも有効活用が可能だからオモシロイです。前述した『PERFECT DAYS』もある意味それが当てはまるのですが、主人公の気持ちは切なさに溢れていますが、それでも仕事には出かけると、だけどどうしてか心は正直で涙が止まらない。そこに“わたしの新しい夜明け、新しい人生”という言葉と、長調単調行ったり来たりという絶妙なバラッドのメロディーが重なることによって、一気にライフ・イズ・ビューティフルなノリになっていくわけです。これこそが名曲「Feeling Good」の効力なのでしょうね。この類まれなるトラックは、そういった意味で(良い意味で)使い勝手がめちゃくちゃイイのだと思っています。

「Feeling Good」の引用映画をもう一本。1993年のジョン・バダム監督作品、ブリジット・フォンダ主演による『アサシン』を紹介しておきましょう。

こちらは1990年のフランス映画、リュック・ベッソン監督『ニキータ』のハリウッド版リメイクなのですが、本作が他とやや違うのは、「Feeling Good」はもちろん、なんとニーナ・シモンのボーカル楽曲が全編にフィーチャーされているという、どんだけおんぶにだっこな作品なのかよとちょい呆れてしま…いやいや、素晴らしいセンスの作品なのですね。

まぁとにかく出てくる出てくるニーナさんの歌声がという感じなのですが、ビートルズのカバー「Here Comes the Sun」から始まり、「I Want A Little Sugar In My Ball」「Wild Is The Wind」、そして「Black Is The Color Of My True Loves Hair」とてんこ盛り。嬉しいのはサントラ盤にすべてこれらも収録されているということで、さすが、90年代タランテイーノから始まったサントラ引用曲襲撃時代の賜物の一つでしょうか。監督が『ブルーサンダー』(1983)や『ハード・ウェイ』(1991)の純粋エンタメ映画職人ジョン・バダムだけに、映画自体は普通にオモシロイのですが、アクション映画にニーナさんを大量投下という荒業に出たことは、さすがにちょっとどうか…と感じてしまったりしましたね。

さて、ここからはニーナさんの他楽曲がどれだけ映画に使われているかというハナシを。デヴィッド・リンチ監督による究極のプロフェッショナル・インディペンデント作品『インランド・エンパイア』(2006)では、監督自身が製作したニーナさんの曲「Sinnerman」のミュージック・クリップ、そのものがエンドロール映像として登場します。

この曲「Sinnerman」は2003年にフェリックス・ダ・ハウスキャットによるヘヴンリー・ハウス・ミックスが作られていましたが、そのMixバージョンも『インランド・エンパイア』同様、2006年に『マイアミ・バイス』(映画版)で引用。これがまたカッコイイ。元がイイからリミックスになっても母体が色あせない仕上がりです。こちらはサントラ盤にて聴けますね。

2009年、ザック・スナイダー監督の『WATCHMEN / ウォッチメン』では「Pirate Jenny」が登場。これを引用するところが奇作『300〈スリー・ハンドレッド〉』(2007)やDCコミックス・シリーズを支えてきたザック・スナイダーのグッド・センスなところ。この「Pirate Jenny」=「海賊ジェニー」は、クルト・ヴァイル作曲、ベルトルト・ブレヒト作詞の『三文オペラ』の楽曲をニーナさんがカバーしたオペラ大作なんですね(使用音源もライブ収録版)。このあたりもザックのこだわりを感じますし、よくもまぁこの曲をDCムービーに放り込んだなと、いろいろ調べてみて驚きが増しました。

そして最近作。2019年のドイツ映画で、2024年に日本公開され観た者たちを震撼させた問題作『システム・クラッシャー』

この作品、父親からの暴力によってトラウマを抱える9歳の女の子ベニーの、極度の傍若無人な振る舞いに、大人たちがひたすら手こずり、その猛威がどんどんエスカレートしていくという、観ていて救いようがないくらいの喪失感を植え付けられる問題作です。しかし、だからこそ本作からの影響力とメッセージは絶大で、この難役ベニーを演じたヘレナ・ゼンゲルは後にハリウッドへ進出。本作自体もベルリン映画祭で銀熊賞受賞と、社会派作品の重要作として高く評価されました。そしてこの作品のエンディングで「Ain’t Got No-I Got Life」を歌いあげてくれているのがニーナさんなんですね。

この歌の歌詞もまた強烈です。“私には家がない、靴がない、お金もない、品もない、友達もいない、学校も出ていない、仕事も、これといってやることも、寝るところもない…” ひたすらに自らの生活と人生を嘆きながら、曲の後半は “私にあるもので、誰にも奪えないもの、私には髪がある、頭がある、脳が、耳が、目が、鼻が、口がある、私には笑顔がある、命がある、自由がある、私は生きている!” と結ばれます。

まさにどこにも行けない、だけどどこか自分の居場所を探してもがくしかない少女ベニーの気持ちを代弁したような引用なのですね。これはまたニーナさんの歌に持っていかれた、いや持っていってくれて観ている方が救われたようなエンドロールでございました。

最後は本日(4/10)から公開となった作品。『1975年のケルン・コンサート』です。

こちらはタイトル通り、その年のドイツはケルンで開催されたキース・ジャレットの伝説的なコンサート、の、開催に向けて実際にあった、奇跡的な舞台裏を描いた作品。これは是非観ていただきたい傑作でしたね。音楽映画にして驚きの青春映画。だけど、であれば音楽はキースの曲たちじゃないの?と思いきや、こちらも意外や意外、エンドロールで流れるのはニーナさんの「To Love Somebody」でした。もともとはビー・ジーズのバリー・ギブがオーティス・レディングのために書いた曲ですが、オーティスはこの曲を録音する前に亡くなってしまったので、結局ビー・ジーズが歌いヒット曲となったいわくつきの楽曲です。

しかしこれをニーナさんがカバーするとまたまた伝わってくるものが数倍になってしまうから不思議ですね。この歌は “誰かを愛するということ” という歌詞の通り、本当にたくさんの人に愛されカバーされてきた曲。ジャニス・ジョプリンにルル、日本では沢田研二も歌いました。そんな曲がラストを飾る映画『1975年のケルン・コンサート』。御覧いただければ、なるほどここでニーナさん…ずるい!!でもイイ!!となるはずです。最高の作品なので、オススメいたします。

というわけで、今回はニーナ・シモンが歌う楽曲たちが、どれだけ映画に引用され、影響力を発信してきたかについてご報告してみました。もちろんここに紹介した限りではありません。まだまだあるはずですし、今後もあるでしょう。ニーナさんの歌声は、映画の中でも永遠に響き続けるのです。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週土曜20時からOA中。ちょうど明日の回で『1975年のケルン・コンサート』からニーナさんの曲、お送りします。是非聴いてください! 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9