レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』相変わらず西へ東へ飛び交っております、志田一穂が今回もご案内させていただきます。
さて、今回は第50回目ということで、そんなキリバン回にはあのビートルズをネタにしたレア・サントラを紹介しなくてはじゃないですか。10,20,30回目にはちゃんとやってるんですよ。え?40回目?はい、そこだけ忘れておりました…。だからこの50回目は超レアなビートルズ・サントラネタ、お送りしたいと思います。

まず1994年はじめのこと。ポール、ジョージ、リンゴの遺されたビートルズ3人が、今や奇跡のドキュメンタリー集と謳われる『ビートルズ・アンソロジー』を発表するのです。当時はCD2枚組が3シリーズ、ビデオでも8巻セット(レーザーディスクも出た)でリリースされ、とにかくビートルマニアたちにとってはとんでもない未発表音源や貴重な記録映像などが完全リマスタリングされ、しかも高音質&高画質でりリリースされたので、かなり度肝を抜かされたんですね。

で、さらに驚愕させられたのが、ビートルズの新曲2曲の同時発表です。ジョン・レノンが遺したソロのデモテープに、3人がアレンジして新たな音源をダビングすることによって、ビートルズ4人による最新曲としたわけです。それが「Free As A Bird」と「Real Love」。後者の方はジョンのドキュメンタリー『ジョン・レノン/イマジン』(1988)にて公式に収録され音源もリリースされたのですが、そのデモ音源とは雲泥の差の新生版。当然4人で創り上げたものですから、完全なるビートルズ・サウンドになっていて、もう涙腺崩壊いたしました。
そんな新曲リリースという最高のプレゼントを制作していた裏で、実はもう一曲、ジョンのデモから新曲を創り上げるというミッションがあったのです。その曲は「Now And Then」といって、それはそれはジョンにしか書けない至極の名曲でした。本当はアンソロジー3部作の各CD冒頭に一曲ずつ新曲を収録したかったんですよ。ディスク1には「Free As A Bird」、ディスク2には「Real Love」、そしてディスク3には「Now And Then」と。見栄えもいいし構成的にはばっちりですからね。でもその3曲目の復活が、なんと成立しなかったんですね(結局ジョージ・マーティンによる未発表インストが収録)。

で、どうして成立しなかったかと言うと、当時のレコーディング技術(プロトゥールスといったデジタル処理技術含む ※1994年時点ではプロトゥールスⅢが発売されたばかり)では、ジョンのデモが入った音源からどうしても雑音が取り切れなかったから、というのと、アンソロジーの新曲をプロデュースしたジェフ・リンによれば、コーラスやギターソロなどはセッションによってなんとなく形作られていたが、肝心の未完成バースに入れ込む「歌詞」が出来ていなかったため、最後まで作りきることができなかった、と言われているのです。技術的限界については時間が解決されるかも、ですが、新たな歌詞が出来ていなかったというのはなかなか思いもよらないこと。天下のポールなら、ちゃちゃっと歌詞ぐらい思いつくでしょうに、なんて言ったら怒られますが、きっとそんなレベルではないほどに、真摯にジョンの曲と向き合っていたんでしょうね。そう簡単に思いを引き継いでプラスオンできるものではないでしょうし。

とにかくこの未完の新曲「Now And Then」はそれから27年の年月を経て、遂に2023年に完全リニューアルが施され、我々の元へと届いた運びとなったわけです。それもこれも、すべてはAI技術のおかげだそうで。そもそもここに辿り着く間にもビートルズのあらゆるアーカイブは新たなコンテンツとして随時リリースされていて、その最後の大玉として、映画『ビートルズ/レット・イット・ビー』(1970)の完版版製作プロジェクトというものがあったんですね。

映像許諾権利を探し回るディストリビューターたちも最後の獲物がこの『ビートルズ/レット・イット・ビー』だったと言われています。膨大な未使用フィルムと未発表音源があるこのドキュメンタリー映画は、公開当時ビートルズ解散の引き金となったと言われる「ゲットバック・セッション」の全貌がわかる音楽史、ロック史的にも最重要コンテンツで、誰もがその実態を追っていたわけですが、ビートルズの権利元であるアップルはひた隠しにしながらこの映画『レット・イット・ビー』改め映像シリーズ『ゲットバック』の製作に打ち込んでいたわけです。それらは2021年、遂に配信で発表され、アンソロジー以来の度肝を抜かされることになったのですが、実はその製作時に使用した、モノラル音源をステレオ音源にデータ変換させる「デミックス」というAI技術の登場が、「Now And Then」復活のきっかけになったと言われているのです。

驚くべきはそのソフトのおかげで、雑音だらけだったジョンのデモ音源から、ピアノとボーカルそれぞれを完全分離させたというんですね。どんな手口でそんなことが?と、当時は思いましたが、もはやこれだけAIが巷にはびこる時代になりますと、「まぁ出来ちゃうんでしょうね?」と軽く納得してしまうから、ホント、時の流れというのは恐ろしいものです。とにかくこうなったらこっちのもので、当時セッションした際のジョージのギター・バースもミックス(当然ジョージも既にジョンと一緒にいるから新録音はできない…)、さらにかつてのビートルズ音源から様々な曲のコーラスパートを抜き取ってそれらもこの曲に融合させるという、とにかくAI技術なくしては新たなる楽曲構成は不可能だったと言わせしめるほど、現代の新たなテクノロジーのおかげで遂にビートルズにとっての新たな生命体として新曲「Now And Then」は産声をあげたのです。
いやーなかなかサントラの話にいきませんね。壮大なビートルズ後日譚が一体どんなレア・サントラに?とお思いでしょうが、これがまたなかなかの事情がこのあとありまして。新曲「Now And Then」を完成させたポールとリンゴは、この曲をいずれかの劇場用映画でフィーチャーしてくれまいか?と考えたそうです。ビートルズの新曲を映画で使える? それはそれは結構な争奪戦があったのではと思いますが、なんとその使用権をゲットしたのは『キングスマン』シリーズや『X-MEN ファースト・ジェネレーション』などの監督、マシュー・ヴォーンでございました…。この時点で「ん…だいじょうぶか?」と不安がよぎりましたが、想像通り、完成した映画はキングスマン的スパイものでコメディ要素もちらほら。しかも監督曰く「これは80年代の『ダイ・ハード』や『リーサル・ウェポン』などへのオマージュなんだ!」などと言いだす始末。待て待て待て、ブルース・ウィリスやメル・ギブソンのアクション大作にビートルズかよ!と、かなりの勢いで「こりゃダメかもしれないぞ」と早々に覚悟した次第です。

その映画こそ、2024年に全世界公開された『ARGYLLE/アーガイル』という作品ですね。え、知らない?はぁ、そうですか。いや、そうですよね…。いつ公開されていたんでしょうか?ですよ、マジで。まぁ別に映画としてダメとか、面白くなかったとかはないんですよ。まあまあ面白かったし(まあまあか)、そこそこ楽しめましたしね(そこそこか)。でもねぇ、やっぱりこの映画じゃなかったんですよねぇビートルズの新曲起用は。しかも映画自体のプロモーションに、特段ビートルズのネタを押し出す様子もなかったですし、当然007でもキングスマンでもミッションイン・トムクルーズでもない、まったく新たなスパイものだったので、日本の映画ファンはおろか、一般客だってほぼほぼスルーだったと。これにはビートルマニアたち、かなりがっかりだったと思います。

しかしこのレア・サントラのご紹介を担っている志田としては、いまだ注目されていない、劇中流れる「Now And Then」のインストゥルメンタル・バージョン、しかもオーケストラ・アレンジ・トラックの存在をここでご提示しなければいけません(やっと出た)。本作にはどのビートルズの音楽コンテンツにも収録されていない、貴重な「Now And Then」のオーケストラ・バージョンが収録されているのです!(やけくそに叫ぶ)。で、これがまたなかなかの出来なのであります!(ホントに!)。いやーもったいない。少なくともそんなサントラ音源が作られたくらいだから、映画スタッフとしてはビートルズへのリスペクトはちゃんとあったのよね、と理解できるわけでして、それがこのオーケストラ・バージョンの存在によってわかっただけでも良いではないか…!と、またまた声を大にして言いたいのであります。『ARGYLLE/アーガイル』のサントラ楽曲はサブスク配信で聴けるので、是非チェックしていただきたいですね。ビートルマニアとしてはそのあたりもちゃんとコレクションしておいてほしいところ。と、今回は最終的に悔し紛れの涙とともにレアなビートルズ音源、紹介いたしました。次は忘れずに60回目ですね。では、こちらはまたカッキンで…。
志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週金曜23時からOA中。是非聴いてくださいね!湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9