
sonoを使ってくださっているアーティストやDJの皆さんへのインタビュー企画、数回に渡り「激DJに訊く!稼げるDJ・呼ばれるDJになるためのメソッド」と題したシリーズでお届けしています!
第3回目のメインテーマは「テンションの配分について」。noteのマガジン「激DJ 構築の戦略」を書いている激さんに、自分をプレゼンテーションしつつ「独りよがり」にならないDJプレイをするにはどうすれば良いかをお伺いしました。
前回の記事:
客観的に見る自己のテンションと「2:8の法則」
激(以下 G):DJをするとき、「自分のテンション感」って、すごく大事だと思ってて。
Mimy(以下 M):テンションですか。
G:それについて書いたのが「選曲の構築-2:8の法則 / 自分のタイプを判断する」という記事なんですが。このnoteのマガジンで伝えたいことの中でも、一番ウェイトが大きい内容なんですよ。

G:テンションの話をする前に、もうちょっとわかりやすくするために別の話をしますね。
さっき(第1回の記事で)「安定と裏切り」という話をしましたが、マーケティングでもよく「2:8の法則」という話が出てくるじゃないですか。
M:ありますね。
G:大体のDJは「お客さんが好きな曲を8割かけて、自分の好きな曲を2割流す」。これは多分、DJ論の中で唯一ちゃんとロジカルに説明されてる文脈だと思います。
ただ、この「8割と2割」は「安定と裏切り」の比率になっていることが肝心です。
DJには「クレイジー」な人が多くて、そういうDJは自分の好きな2割の曲にすごくクレイジーな曲を選びがちです。でも、すべてのDJがそういうわけじゃなくて、(DJではない)一般の方が好むような曲を好きなDJも沢山いるんですよね。その場合だと、DJの選曲が100%「DJもお客さんも皆んな好きな曲」になってしまう。
M:なるほど。
G;さっきの「安定と裏切り」の話でいくと、「皆んなが好きな曲」が8割で、「自分が好きな曲」が2割になるのが理想です。しかし、皆んなが好きな曲が100%になると、プレゼンテーションとして弱いんですよね。
「8割は大抵の人が嫌がらない曲で、残り2割はインパクトのある曲」という風に分ければ、全部の人に対してロジカルに通じます。
M:「お客さんは安定を求めつつ、自分の予想を裏切ることも実は期待している」ということに応えるわけですね。
G:そうです。そしてここからようやくテンションの話に繋がってくるんですが、この「2:8の法則」を考えるとき、「自分のテンションの位置が、一般的に考えて大体どの辺なのか」を把握しておいたほうが良いです。
さっきの「一般の人が好きな曲が自分も好きだ」という人のテンション感は、階段で例えると踊り場みたいなところにいるとイメージしてください。
そして「一般の人が好きな曲よりも暗い曲が好きだ」という場合は、階段の踊り場から2、3段くらい下がったところです。
「一般の人が好きな曲よりも、もっとアグレッシブな曲が好きだ」という人は、踊り場の5段くらい上にいる。
そのようなイメージを持つと、自分のテンションが踊り場から大体どの位置にあるかを意識することで、楽曲のテンションの2:8の割り振りを考えやすくなります。
M:なるほど。一般の人が好きな曲と自分の好みの曲のテンションの差を考える、ということですね。
G:自分の場合、明らかにテンションが高いんですよ。名前からして「激」ですからね(笑)
M:そうですよね(笑)
G:もう、好きなようにプレイしたら、ドラムとベースしか鳴ってないんですよ。
あとはサックスか、金管楽器が大好きなので、ファンファンファンファン響いてるわけです。
M:(笑)
G:でも、これだとバランスが重たすぎる。吹奏楽部のアフターパーティーでくらいしか絶対ウケないので(笑)
そこで、8割の曲はもう少し階段を降りて「一般の人が好きだろうな」という階段の踊り場で過ごして、そこで空気が温まったら2割を自分の選曲に持っていくと、ちょうどよいバランスになります。
この辺の、自分が何も考えず好みで選ぶ楽曲のテンションは、人の性格によっても違うと思うので。DJしてる人ってもう、陰(いん)に篭っているタイプか、自分みたいに「わーわー!」と騒いでるタイプのどっちかなんですよね。
M:確かにそれはありそうですね。
G:どちらかというと、陰に篭ってる人のほうが多いんですよ。まあ、それでも選曲がクレイジーな人はもちろんいるんですけど(笑)
プレイリストを組み立てる中で、「テンション感」も戦略としてしっかり考えていけば、よりお客さんにヒットする。要は80点〜90点を取れるDJプレイがしやすくなる、という理屈に辿り着いたんです。
M:そういうことね、本当にロジカルです。分かりやすい!
DJとは誰のための行為か
M:ちょっと全然違う話になってしまったら申し訳ないんですが、この前、30歳手前くらいの女の子と話をしてて。
アニソン界隈のイベントによく遊びに行く子なんですが、最近アニソンもテクノもジャンルがごちゃ混ぜなDJイベントに行ったらしく、テクノの人が全然知らない曲をずっと流すから「よく分かんなかったんですよね〜」と言っていたんです。
そういう風に、普段自分が得意とするジャンルの曲を聴かない人でも、アゲられるものなんですかね?
G:もうね〜、それはね〜「腕」ですよ!それが「腕」ですよ!!
だから……敢えてこう言いましょう。そこでお客さん側に「自分の感受性がないから楽しめなかったんだ」とネガティブに捉えさせてしまうんじゃなくて、動かせられなかったDJが悪いんですよ!
M:ほおー!
G:だってDJって、そのフロアーにいる人全員を踊らせる仕事だと思ってるので、それが出来なかったらあんまり良くないということでしょう。

G:色んな方法があるんですよね。例えば「共通言語」って何だろう?と考えることです。
アニソンやJ-POPのDJがいるイベントで自分だけがテクノDJなのであれば、まず僕の場合、J-POPのなかでもテクノに近い四つ打ちから始めたあと、裏打ちでハウスなりを入れていって、テクノに持っていくような。
noteの記事にも書きましたが、自分が提案した音楽のアプローチの返事としてお客さんを揺らすことが「ヴァイブ」です。なんか、そういう内容のことをどこかの外国人が言ってたんですけど、誰だったか忘れました(笑)
本当に、これが分かった時からめちゃくちゃDJの反響が良くなってきたんですよ。
M:そうなんですね!
G:だから音楽によるコミュニケーションって、すごく大事だなと思います。「これが自分の音楽です!」って言ってお客さんが着いてきてくれれば良いけど、大体着いてきてくれないので。
その現場の客層が事前に分かるのであれば、例えばJ-POPやアニソンの中でも四つ打ちの楽曲を流しながら8割はアニソン、2割は自分のフィールドであるテクノのDJをするのが正解だったんですよね。
M:なるほど。それでは、自分の好みだけで流すのは、じゃあなんて言うのかな……「コミュニケーションを取ろうとしてない」ということなんですかね。
G:そうです。そういう人は「職人タイプ」なんですよね。
職人でウケれば皆んな良いんですよ。でも、DJ全体でそんな才能がある人って、本当に数少ない。もう、1%くらいしかいないと思います。
本当にあるんですよ、たまに。10人くらいしか居ない箱で、音響がバッチリ入ってて、すごいエクスペリメンタルな曲を浴びて「もうエクスペリメンタルで生きていく!」みたいな。そういうのって、もうアートとして完璧じゃないですか。
M:ですよね。
G:そういう感覚もあるのはあるんですけど、それって全員が全員じゃないし、環境も限られてくる。そんな人がageHaで同じエクスペリメンタルを流したら、お客さん皆んな帰っちゃうので(笑)
M:(笑)
G:やっぱりDJをやる以上は、もうなくなったけどageHaみたいなデカい場所でウケたいなって、僕は思ってるんですよ。今だったらWOMBとか。
そう考えると、お客さんを沸かせるのは結局なんやかんやでDJの手腕によるところだな、と思いますね。
M:なるほど、独りよがりじゃダメってことですね。
独りよがりにならないDJプレイ
G:noteにも書いたんですけど、自分は昔、マジで「ひねくれた革命家」みたいな選曲をしてたので(笑)
もう本当に、「レア・グルーヴというのは自分が見つけた格好良い曲を提示するムーブメントだ」って、信じて疑わなかったんです。
それでもやっぱりある程度の「クラシック」というのがあるので、「どうやって準備するか」が重要だったんですが、当時は何も分からず自分で安いレコードを買って、その中でまだ格好良いと思う曲を選んでDJしてたので、もう本当に誰にも刺さらなかったんですよ。
M:そんなことがあったんですね。
G:そうそう。そういうドンピシャなイベントがないかなと思ったけど、なかった。
どれだけ濃い選曲をしても、やっぱりそれに協調する人がいなかったら、ただ独りよがりの選曲をやってるだけで誰も喜びません。
昔は自分しか見ていない状態でDJしていたので、全然ウケなかった。だから今は、この「2:8の法則」をかなり重要視しています。
M:なるほど。お客さん側としても、やっぱり「自分の好きな曲ばっかりやってないで、遊びに来ている人間をもっと楽しませてほしい」と思うことはありますよ。
今思い返すと「あの人は独りよがりだったな」と思うDJの方を見たこともあります。遊びに行っても、本人は楽しんでるんだろうけどこっちはあんまり気持ちが上がらなくて「なんだかなぁ〜」という気分のまま終わったりとか。
G:「それが良い!」というお客さんが着いていたら、それは独りよがりじゃない。
そういう人には濃厚なファンのコミュニティが出来るので、そういうのを目指そうと思ったら、「職人タイプ」で突っ切るほうが良いです。
でも、不特定多数の人に喜んでもらうのなら、敢えて自分のテンションを変えるというか、8割の部分をどのテンションでやるかを決めるのが重要だと思いますね。
「激DJに訊く!稼げるDJ・呼ばれるDJになるためのメソッド」第4回は以下の記事で公開中!