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第66回 スタンダードを『囁き』に変えた、エキゾチカ前夜の傑作

私が収集している『通称:美女ジャケ』をご紹介するこのコラム、約1年ぶりにひっそりと連載を再開いたします。これまでは毎週月曜日正午の更新でしたが、これからは満月と新月の正午のタイミングで更新していこうかなぁと思っています。とはいえ、復活に向けて意気込んで文章を書き始めましたが、ブランクが厳しすぎて全く筆が進まず、パソコンの前でひとりシュンとしておりました(苦笑)
言い訳はさておき、リハビリも兼ねた復活第1弾は、Les Baxterの1954年作品『Thinking Of You』をご紹介します。

 

◆ 『Thinking Of You』について

LES BAXTER『Thinking Of You』(1954年リリース)
1. Thinking Of You
2. Speak Low
3. Little White Lies
4. Miss You
5. Nevertheless (I’m In Love With You)
6. Mine
7. With My Eyes Wide Open I’m Dreaming
8. The Nearness Of You

誰もが知るスタンダード曲を、オーケストラと男女混声合唱で、これでもかというほどロマンチックにアレンジしたカバー集です。
後に『エキゾチカの父』と呼ばれるレス・バクスターですが、エキゾチカ前夜ともいえるこの作品には、1950年代の人たち憧れた『夢の中にいるようなハープやビブラフォン』が響き渡ります。まさにスペース・エイジ・ポップの原型を感じさせる、重要文化財のような1枚です。 

◆ 『Thinking Of You』と私

ムード音楽の沼にどっぷりと首まで浸かって3年も経ちますと、巨匠たちがこぞってなぞる『お馴染みのカバー曲』がいくつもあることに気付きます。その内の1曲が、以前から気になっていた『M2. Speak Low』です。

正直に申し上げて、ジャズミュージシャンがやっているこの曲は、原曲であるクルト・ワイルの劇中歌という背景を考えると、どうも眉間に皺を寄せて格好を付けすぎている気がするんですよね。

本来この曲は、もう少しドラマチックでキッチュに、耳元で愛を静かに囁きかけるような手触りだったのではないでしょうか。その点、レス・バクスター様のアレンジは、私のそんなひねくれたモヤモヤを見事に解消してくれるのです。

そして、ここからが今日1番お伝えしたいところです。

タイトル曲が素晴らしいのは当然として、個人的には『M4. Miss You』や『M7. With My Eyes Wide Open I’m Dreaming』にこそ、このアルバムの真骨頂が潜んでいる気がしてなりません。

ただリズムで押し切るのではなく、空間に対する『音の置き方』そのものに、惚れ惚れするような歌心がある。ピアニストとして音を学び、歌手として音を身体で覚え、そしてアレンジャーとして音を空間に配置することを職業にした人間にしか出せない響きが、このアルバムには詰まっているように思います。
1950年代後半に向けてエキゾチカの父となっていく彼ですが、その直前の瑞々しい感性が凝縮された響きに、ぜひ耳を傾けてみてください。

サブスクリプションでもお聞きいただけます。
タイトル曲「Thinking Of You」はもともと、1927年にブロードウェイで初演されたミュージカル『The Five O’Clock Girl』のナンバーです。その出自を知ってから聴くと、また違った味わいがあるかもしれません。
夜のひと時にぜひ(寝落ちしたらすみません笑)

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