こんにちは。火星音楽通信です。今回はアルバムタイトルについて少し考えてみました。アルバムタイトルってどんなものが多いかなとずっとライブラリを総ざらいしてみたところ、やはり何かを端的に表した短い単語のようなものがかなり多かったように思います。くどくどと説明するようなタイトルというのは潔しとされていない感じでしょうか。
概ねそのような中から、すごく考えさせられる文学的なタイトルと思えるものをいくつかピックアップしてみました。
High land, hard rain / aztec camera
Aztec cameraのroddy frameはこの完璧すぎるファーストアルバムを制作した頃は何とまだ10代であったということです。これは本当に驚異的で、初めて聴いた時信じられない思いがしました。シンプルで美しいメロディや、信じられないぐらい目まぐるしく変わるコード進行や、どうしたらこのようなメロディが付けられるのだろうと、何回聴いても掴むことが出来ないラインがあったり驚きが各所に散りばめられているアルバムです。言葉も驚くほどたくさん詰め込んであり、またそれが詩的に素晴らしいと思えるものばかりで本当に舌を巻くしかない作品でした。
そのタイトルが「high land, hard rain」。どのように訳すべきか、あるいは訳す必要はないのか。「高地、激しい雨」とひとまず書いてみたけれども本当にこの2つのワードだけでたくさんのイメージが湧いてくる。日記のようでもあるし、誰かの残した意味不明なメモのようでもある。多くを語っていないがこれほど多弁なタイトルは他に知らない。
Between 10th and 11th / the charlatans
この”Between 10th and 11th”はthe charlatansのセカンドアルバム。軽快でダンサンブルかつサイケデリックなロックを聴かせたファーストアルバムに続くアルバムなのですが、順調な滑り出しとは裏腹に、急に影を増して本作がリリースされたのは少し驚きでした。ですが、私はこのアルバムのなんとも言えない骨太で、明確なメッセージがあるわけではないけれども強烈に異彩を放つこの作品に瞬時に虜になってしまいました。そしてこのタイトルも訳せば「10番目と11番目のあいだ」というなんとも明快ではない何か泥沼にはまり込んでしまったかのような区切りの悪さにすごく文学性を感じたのでした。
Modern life is rubbish / blur
Blurという人たちは基本的にキャーキャー騒がれたアイドル的なバンドです。これはそのセカンドアルバムで、アイドル的な魅力を一番発していた時期でした。しかしながら、同時にそれだけにとどまらない独特な個性的なものも持ち合わせていたと思います。「現代的生活はゴミ」というタイトルを絶頂期のアルバムに命名するというのは気骨のある行動だし、リスナーに何かを示唆するシンプルだけど文学的な良いタイトルだと思いました。
Blood on the tracks / bob Dylan
Bob dylanの作品のタイトルにも文学的と思えるものがたくさんありました。”highway 61 revisited”もチョイスしたいタイトルでしたがすでに火星音楽通信で取り上げましたので別の作品を選んでみました。日本語タイトルが秀逸で「血の轍」と訳されていますが、これ以上の言葉が見つかりません。
Dylanは詩を深読みされるのをとても嫌っていましたが、この時代のディランは特に私生活がそのまま曲や詩に反映されているとしか思えず、本人は必死に否定するんですが、当時のdylanの苦しみがそのまま曲に込められたものと考えてまあ間違いないと思います。そしてタイトルが”blood on the tracks”です。生々しさが伝わってくるようです。
You Can’t Do That On Stage Anymore / frank Zappa
“You Can’t Do That On Stage Anymore”というタイトルなんですが、zappaのことなんで何かいかがわしい感じとか、卑猥な感じとかをイメージするかもしれませんが、意外に味わい深いタイトルで、訳すと「もう二度とステージでこんなことできやしないだろう」。frank zappaのバンドは天才級の人たちばかりのしかも大所帯。演奏するのにものすごい練習を重ねて、それらのほとんどはfrank zappaの完全なる指揮のもとに録音されていました。
それらのアーカイヴを後年zappaが編集してシリーズ化してライヴアルバム化されたのがこのタイトル。確かに現代では演者に無尽蔵な拘束時間を要求するこうしたライヴは実現不可能だと思います。それを理解した上でこのタイトルを付けるfrank zappaはやはり的確で間違いがない男だと思います。
All things must pass / George Harrison
説明することが全て野暮に思えてくるgeorge harrisonの巨大な有名アルバム。意味的には東洋的な感覚である「諸行無常」という解釈で良いとは思うものの、ニュアンスはちょっと違うなと感じています。「全てのことには終わりがある」という訳が自分にはせいぜいかな。余談ですが、夏目漱石の「吾輩は猫である」を洋書のペーパーバックで見つけて、それが”I Am A Cat”だったのには笑った。
A love supreme / John Coltrane
すでに日本語タイトルが付けられていて「至高の愛」となっていますが、それが多分ベストだろうと思います。すごく真面目なタイトルだなぁというのが率直な感想ですが馬鹿にしているわけではありません。すごく好きな作品です。
またもや余談ですが、「至高の愛」ときいて連想したのが谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」です(読んでいませんが)。翻訳されているようで、タイトルは「naomi」だそうです。こうするしかなかったのか?の思いを拭えません。
Walls and bridges / John Lennon
これも定番の日本語タイトルがあって「心の壁、愛の橋」となっています。おそらく意訳の部分が大きいんだろうとは思いますが、正直うまいこと作ったなと思っています。この”walls and bridges”は精神的な壁や架け橋になるもののことをタイトルにしたんだと思いますが(物理的な壁とか橋のことではないという意味)、シンプルに「壁と橋」では真意を読み解くのは容易ではなく、「心の壁、愛の橋」とすることで説明不要になるほど命名者の意図を伝えることが出来ていると思っています。他にも解釈があるのかもしれませんが、私はこの日本語タイトルに沿った解釈一択となっています。原題の”walls and bridges”はもちろんすごく素晴らしい文学的なタイトルだと思います。
Unknown pleasures / joy division
ロック的な大名盤の一つと数えられるjoy divisionのこのアルバム。実は何度聴いてもあまり良さが分からず、それがまさにこのアルバムタイトル「未知の喜び」になっていて、別にうまくもないんですが、いつかはこのアルバムの喜びが理解できるだろうか?と毎回思いつつ聴いたりしています。
Everybody knows this is nowhere / Neil young
「誰もがここがどこでもないってことを知っている」という感じでしょうか。「ここがどこでもないってことを知っている。。。?」ということは「誰もここがどこなのか知らないってことか?」などと精神的に迷走を誘っているかのような沼タイトル。
Terror twilight / pavement
語感が文学的以外の何者でもないと感じました。「恐るべき黄昏」とでも訳していいですかね。これだけで何か不穏な感じがします。何か嫌なことを予感させる言葉を言えば文学的か?と言えばそうではないと思うんですが、何か心をざわつかせるような不安な感覚を言葉によって呼び起こされるというのは文学の大切な機能の一つではあると思います。このアルバムの1曲目が’spit on a stranger’という曲では自分で勝手に「他人に唾する」と日本語タイトルを付けていますが、すごく不穏ですよね。
Hatful of hollow / the smiths
「帽子いっぱいの空虚」とでも訳していいでしょうか。本当に何というペシミズムか!笑
The smithsの面白いところは、こうした絶望的な情景が感情ダダ漏れな感じで歌われるのではなく理知的に冷静に美しく歌われているところです。どこを切っても絶望しかないですが、不思議な幸福感に包まれるのは、ジョニー・マーのソングライティングと、詩人モリッシーの冷徹な言葉のマッチングが最高に良いからだと思います。
編集後記
最後に、自身の作品のタイトルの命名傾向としては多くの作品と同じように、作品を端的に短い単語で表したもの、にまさになっているなと思いました。現時点での最新作が以下となります。
fearless / sappow
今回勉強した諸先輩方の文学的なタイトルに倣って、私もそのようなタイトルをいつか命名してみようと思います。ありがとうございました。