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火星音楽通信:第5回ライナーノーツ考

ライナーノーツ考、とか大層なタイトルを付けましたがたいしたアイデアがあるわけではありません。昔はライナーノーツよく読んでいたけど、今は読まなくなったなと思ったのでそこを起点にあれこれ思い出しつつ紹介していけたらなと思い立っただけです。

冒頭に書きましたが、今はCDを購入してもほとんどライナーノーツを読まなくなりました。昔はアーティストに関する情報も少なく、音楽雑誌などで細かくチェックしていないとほとんどそのアーティストについて知ることができませんでした。ライナーを書いている日本の担当者はどうやってそんなにアーティストの近況を知ることができているのだろうか?と不思議に思ったものです。

ライナーノーツは読んでいて、すっと頭に入ってくる部類と何度読んでも頭に入ってこない部類のものがあります。対談形式のものは概して非常に読みやすいと思います。経歴やヒット状況、ランキングなどの実績を中心に書いたものは全然頭に入ってこないですね。中には日本語がおかしくて、読みながら憤慨してしまったりする部類のものもあります。

だんだんとあれこれ思い出してきていますが、「このアーティストのライナーは俺に必ず書かせろ」だの、筆者とアーティストとの仲の良さをアピールしたいだけの自己顕示欲ライナーも当時よくありました。めちゃくちゃファンでただひたすらキャーキャー騒いでいるだけのライナーもよくありました。思い出すだけでイライラしてきます(笑)。ここではそれらの醜(シュウ)ライナーは無視して、良かったよなと思えるものだけ紹介していきたいと思います。

また、当然ですが音楽が好きでライナーもよかったものについて紹介していきます。

brilliant trees / david sylvian

最後まで聞き通すとどこか深く落ちていく感覚に包まれる(悲しさと不安と心地よさの妙なミックス感あり)

良かったライナー・ノーツと聞いて真っ先に思い出したのは本作のライナーノーツです。ピーター・バラカンと坂本龍一の対談で構成されています。本作は自身のスルーライフでも5本指に入るくらいの好きなアルバムで、レコーディングを見学したピーター・バラカンと参加した坂本龍一がレコーディング風景を思い出しながら対談しています。音源を聴きながらその風景が目に浮かぶ、作品をより深く知れるような名ライナーになっていると思います。

ピーター・バラカンさんのライナーノーツは他のアーティストでも結構あって、マイルス・デイヴィス、ヴァン・モリソンなど結構いい文章、というより率直で簡潔、なおかつ感覚的に書かれていて好印象を持っています。

ちなみに、リンクの音源はリマスタリングされたものですが、おすすめはオリジナルのCDのマスタリングのものです。深くくぐもった感じがミステリアスで非常に良かった。新しいリマスタリングはメリハリが付けてあって見通しが良くなっている感じはしますがすごく違和感を感じます。

(1995) Southpaw Grammar / morrissey サウスポー・グラマー/モリッシー

旧版ジャケはなんか気持ち悪かった(けど好きだった)。このリンクのやつは新装盤ジャケです。

このアルバムのライナーノーツは何とmorrissey自身が書いています。書き出しはこうです。

Southpaw is a function of the left brain.

「サウスポーは左脳の働きによるものだ」

もうこれだけで心をぐっと掴まれてしまいます。morrisseyはさすが詩人だけあって文章を読ませるのが非常に巧いと感じました。盤そのものは手放してしまったので再読して味わうことはもう叶わないのですが、書き出しだけではなく、本文も非常に面白かったと記憶しています。また再び読んでみたいです。オリジナルの体裁は廃盤になっていて、新たに再編集され、ジャケも一新された新装版が2009年にリリースされています。

このアルバムに関してはオリジナルよりも2009年の曲順変更その他ジャケ等も一新された新装版の方がおすすめです。旧盤はオープニングが11分と冗長すぎるのでいきなり聞いてられなくなります。

(1973) hosono house / 細野晴臣

宅録の空気感がたまらない

初CD化ぐらい?の昔から持っているアルバムなんですが、その当時のライナーも良かったと思うんですが、数年前に再発になったCDも買い直していて、そこに掲載されていたライナーが細野晴臣さん自身に直接話を聞くインタビュー形式になっていて、これは非常に良かったです。インタビュワーが長年持っていた疑問や制作時の状況などをあれこれ質問して細野さんがそれにこたえていくというスタイルでした。狭山の一軒家みたいなところで機材を持ち込んで、どうにかこうにか録音した、みたいな感じです。

SINGLES and STRIKES / 電気グルーヴ

本ベスト盤はyoutubeで発見できませんでしたので代表してこの曲を載せてみました。本アルバム収録で一番好きです。

電気グルーヴのrockin on japanの連載にメロン牧場というコーナーがあるんですが、そこでは編集長の山崎洋一郎氏との対談形式でダラダラと雑談や近況がふざけながら語られています。笑えます。そんな感じで石野卓球氏とピエール瀧が収録曲全曲を解説しています。そしてこれはベスト盤です。2枚組で、1枚目はヒット曲、2枚目は時代を経た今でも聴けるかな?という感じの選曲がほどこしてあって、ライナーと音源が本当にいい感じです。

i wish you were here / pink floyd

意味がよく分からないヒプノシスが手がけたジャケも良い

最新ライナーに入っているかどうかは分かりません。初CD化ぐらいのライナーノーツだったと思います。これももうCDが手元にないので、おそらくになりますが、大貫憲章氏と誰かの対談形式でライナーが構成されていたと思います。シド・バレットなき後のピンク・フロイドについてざっくり語っている感じで、プログレのライナーにしては、あんまり小難しいことは言ってなかったと思います。おかげで変な拒否感もなく、作品そのものもとても好きになれました。

そういえば学生の時に出入りしていたミュージシャンを目指していた先輩の家で、そこに遊びに来ていたアメリカ人留学生が’i wish you were here’を先輩のアコギ演奏をバックに朗々と歌って聴かせてくれた覚えがあります。ああ、、こんないい曲だったんか、とその時初めて気づいてそのあたりから本格的に本アルバムが好きになりました。単なる思い出話です。

earthbound / king crimson

今聴いてもまずまずの禍々しいサウンド(笑)?というより録音

これは確か初CD化された時のライナーだったと思いますが、ライターがロバート・フリップに「なんでこんな音のライヴ・アルバムを出したんですか?」と核心を突く質問をしていました(笑)。

こんな音、というのは、マスターがカセットテープであり、それもサウンドボード経由ではなく、ラジカセで録ったんじゃね?という感じのレベルオーバーで音が割れているものすごく酷い音で収録されていたアルバムでした。なので、長らくCD化されずにいた作品でもありました。確かに、なんでこんなひどい音のアルバムを発売したのか、というのは全リスナーが知りたかっただろうと容易に想像できます(笑)。

shut up ‘n play yer guitar / frank zappa

現在は新装版になっていますが、オリジナルLPのジャケの方が断然いいですわ。

解説は大山甲日氏で、「guitar world」誌1981年11月号に掲載されたジョン・スウェンスン氏の記事を再録しています。

このアルバムはライヴ演奏された膨大なテープの中から曲のギター・ソロ部分だけを抜き出し、それをLP3枚組で発売したもの。このアイデアそのものにも驚愕しますが、この再録記事の中でザッパが「エンジニアにこういうことをやろうと思うんだけど、、、とはじめて提案したとき、一緒に仕事をしていたエンジニアが、ザッパのことを〇〇〇〇を見るような目でみつめてくれた」、と回想が述べられていて非常に笑えます。

highway 61 revisited / bob dylan

荒涼としたラストの’desolation raw’を聴け!

初版CDとその後の廉価版(といっても1800円ぐらいか)CD時代ぐらいまで収録されいていたライナーノーツです。今も入っているのか分かりませんが、ディランのライナーはやはり読み手がうるさかったせいかすごくたくさん文字が詰め込まれていました。このアルバムの解説はどういう事が書かれていたか覚えていませんが、ディラン自身の散文詩・覚え書き?みたいなものが収録されていました。また、その対訳もていねいに掲載されており、それがすごく印象的で、特にその詩をいいと思ったわけではないんですけど、そのめちゃくちゃな詩の内容が頭に残った、と言った方がいいかもしれません。特に以下の部分。。

以下抜粋

モーツァルトはただしかった…わたしはもはや目ということばはいえない…目ということばをいうと、それはわたしがおぼろげにおぼえているだれかの目のことをいっているようであり…目というものはない―ただ口がならんでいるだけだ―ばんざい口よ

これは特に変な部分だけを抜粋したので妙な感じですが、全体的にニヒリスティックな詩であり、その感覚はこれを始めて読んだ当時すごく共感できた気がしたものでした。

余談ですが、ディランの「highway 61 revisited」という曲を聴いて、まだ見ぬアメリカの「highway 61」を必死で感じようとしましたが、どうしても感じることができませんでした(笑)。今も感じることができません(曲はすごく好きです)。

このアルバムもスルーライフで好きなアルバムなのでいつか紹介したいとは思っていましたが、こんな有名アルバムをマンキンで紹介するわけにもいかないので、ライナーノーツが良かったぜ、という特集で紹介できて良かったです。

犬は吠えるがキャラバンは進む/小沢健二

カッコ良すぎてズルさを感じるんさ

通常日本のアーティストのCDにはライナーノーツ的なものはほとんどなく、本CDは音楽がすごく良いことに加えてアーティスト自身によるライナーノーツまであってなんとお得なんだ、と思った記憶があります。

ライナーノーツもすごくよくて、複雑な思考回路をしているんだろうなと思わせつつ、すごくシンプルで簡潔な書き方がしてあって、あー頭いいんだろうなーと、なんとなく嫉妬してしまうような素敵な文章になっています(笑)。

Don’t Worry, Be Happy / Bobby McFerrin

脱力感

さて今回はこれで終わりです。エンディングテーマはbobby mcferrinの’don’t worry be happy’です。何となく今フッと聴きたくなったのでチョイスしてみました。

ANTENNA / sappow & montahes

https://sappow.bandcamp.com/album/antenna

最後に宣伝ねじ込ませてください。sappowが2020年に制作しましたアルバム”ANTENNA”。実はライナーノーツをueda takayasuさんに執筆依頼しました。同アルバムに封入しております。bandcampでも購入して頂いたらPDFで読めます。おまけにsappowが駄文ライナーを書いていますのでぜひお読みください。

それではまた次回お会いしましょう。

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