レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画がエネルギー源の志田一穂がご案内してまいります。
さて、今回は夏真っ盛りの今、ここぞとばかりに熱く涼しく盛り上がるサントラのご紹介。しかも興奮冷めやらぬオリンピックが舞台の『クール・ランニング』(1993)でございます。
このサントラ盤がなかなかのくせ者。正直、映画の中では楽曲たちが映像にマッチしすぎていて逆に気にならないほど。観終わって面白かった!となって、そういえば音楽も良かったよな?と、サントラ盤をチェックしてみると、え?この曲だった?確かにそうかも!あれ、これも?この曲も!? と、曲名確認しただけでちょっと小躍りするレベル。今回はその中から重要曲=レア・サントラをしっかり解説してまいりましょう。
まずはそもそも映画『クール・ランニング』についてですね。
この作品、ウソみたいなホントのお話の元祖的、実話の映画化作品です。1988年の冬季カルガリー・オリンピックに出場した、南国ジャマイカのボブスレー・チームによる大奮闘劇。ひょんなことからボブスレーで金メダルを狙おうと思いついたカリブ海の男たちの、何事にも屈せず、ユーモア精神をもってオリンピックに挑む姿が、ときに可笑しく、ときに感動的な演出で繰り広げられる最高のスポーツ・エンターテイメント映画です。
で、この映画に流れる音楽がほとんどがレゲエなんですね。真冬の雪深いカナダはカルガリーに、真夏の定番サウンドであるレゲエを?とお思いでしょうが、そこは例のジャマイカン・チームの陽気さが全編に溢れているので、逆にレゲエがしっくりハマっていて、だからか、全然違和感がなかった印象なのです。そのサントラですが、いきなりレコードA-1に飛び出すのが、あのニュー・ウェイブ・バンド、トーキング・ヘッズの「Wild Wild Life」のカバーですね。
このオリジナル、1986年リリースのアルバム『トゥルー・ストーリーズ』(同名映画もあり)からのシングル・カット曲ですが、『クール・ランニング』にてカバーしているのは60年代からジャマイカンレゲエ界隈で活躍してきたウェイリング・ソウルズです。
彼らが興味深いのは時代時代によってその時流に乗ったサウンドを指向し、そこにうまくジャマイカン・ハーモニーを乗せていったことなんですね。このカバー曲ももちろんレゲエ・タッチなアレンジですが、その歌詞は「彼女はワイルドな人生を手に入れた/こんなやり方が君は好きなんだろう?/ワイルドな人生を生きることが!」という具合で土台は流石のトーキング・ヘッズですから、いやがおうにもワイルドでいこう!と思わせるポップなアレンジに落とし込んでいます。80年代からワールド・ミュージックに傾倒していくデヴィッド・バーンならではのコミカル・リズムなこの名曲を、レゲエでカバーするという親和性を存分に楽しめる楽曲でもあるのですね。
お次はA-2のジミー・クリフによる本作のテーマ曲「I Can See Clearly Now」です。 ジミー・クリフと言えばジャマイカン・レゲエシンガーの雄として世界的に活躍しているアーティスト。主演と音楽を担当した映画『ハーダー・ゼイ・カム』(1972)は、舞台となったジャマイカの当時の状況を世界に伝える重要な作品として君臨しています。
そのジミーが90年代になって突然ジョニー・ナッシュの名曲をカバー。ナッシュはレゲエ・ミュージックを録音した最初のアメリカ人アーティストで、彼へのリスペクトも込めてジミーはよりレゲエ色の強いアレンジで呼応したんですね。
70年代が人気のピークだったジミーが、この曲で映画とコラボレーションしたことは、かつてからのファンにとって驚きと喜びのダブル・サプライズだったのでは。それぐらい映画にもマッチしていたし、何よりカバーとしてのクオリティーが素晴らしすぎるんですよね。まさに「今、はっきりくっきり見えているぜ!」(志田訳)という感じ。この夏のフロアで爆音プレイしたいマスト・トラックです。
そしてさらなるレア・サントラがダイアナ・キングによる「Stir It Up」なんですね。まず、この楽曲がもともと1967年に発表されたボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズによるものであることが重要なポイント(もちろん作詞作曲もボブ)。タイトルのStir It Upは直訳すると「かき混ぜる」となりますが、そうなると人気曲「One Love」同様、人種も国も身分も皆かき混ぜよう、という、いつものボブならではのメッセージが思い浮かびます。でもこれ、文脈によっては「刺激する」「引き起こす」といった意味にもなるそうなので、やっぱり抵抗=レボリューションの意味と意志が少なからず描かれている楽曲だとも思われます。
映画『クール・ランニング』はコメディー・タッチで描かれたスポーツ・エンターテイメント作品ですが、根底には人種間の問題提起がところどころに散りばめられていて、そこへ主人公のジャマイカ選手たちが、スポーツでアクションを「引き起こす」と。それが周辺の選手たち、関係者たちを「刺激する」「刺激していく」流れを生んでいくわけです。このあたり、オリンピック・ムービーでもある本作ならではですが、この曲を劇中にカバーで復活させた意味には、そうしたキーワードが秘かに擦りこまれているのではとも感じられるのですね。
では今回のオマケ。紹介した「Stir It Up」の件。1972年に先ほどのジョニー・ナッシュもこの曲をカバーしていますが、その後80年代に入るとパティ・ラベルが映画『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)のサントラで同名曲をドロップしているではないですか。
すわ、ここでもカバーか?さすがエディ・マーフィー主演作!と思いきや、まったく中身は違う「Stir It Up」でした…(プロデュースは『トップガン』のハロルド・フォルターメイヤーなのでまぁ聴き逃せない曲ではありますが)。でもこういうミスチルの「Tomorrow Never Knows」みたいなことやめれ、と思わずドつきたくなるんですよね。
さてそれはともかく、今回は珍しく一枚のサントラ・アルバムからピックアップして紹介してみました。こういうアルバムの中に凝縮されたレア・サントラ、まだまだありますので、またさらにレコメンドしていきたいと思います。ではまたカッキン(隔週金曜日更新)で!
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『ハーダ・ゼイ・カム サウンドトラック』(1972)
これを聴かなきゃレゲエ映画は語れない!! ジミー・クリフが世界に放った映画とレゲエのミックス・アイテム代表作がこの一枚。2003年にデラックス・エディションでCDリリースされたボーナス・ディスク(REGGAE HIT THE TOWN: CRUCIAL REGGAE 1968-1972)には、今回紹介した「I Can See Clearly Now」のジョニー・ナッシュversionも収録されています! >>>CD
志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします!こちらから聴いてね!(何をかけるかはお楽しみ) 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9