このサントラ、ちょっとレア。第58回 新作映画『ヌーヴェルバーグ』から波及してヌーヴェルバーグ作品の音楽を聴く件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』志田一穂が、今回もご案内させていただきます。

今回新作映画にして類まれなる傑作を紹介したいのです。まぁよくも次から次へと作品を撮るなと感心してしまうリチャード・リンクレイター監督がまたやってくれました。7月10日から公開となった『ヌーヴェルバーグ』です。

1950年代末から派生したフランスの映画の革命的運動 “ヌーヴェルバーグ”、その代表作でもある、ジャン・リュク・ゴダール監督のデビュー作『勝手にしやがれ』(1960)が、一体どのように作られたのか?これを完全再現したノンフィクション・ドラマ映画なんです。

こちら志田は試写で観させていただき、正直ぶっ飛びました驚きの作品でした。なぜなら、ゴダールも、主演のジャン・ポール・ベルモンドも、そしてあのブロンドショートカットのジーン・セバーグも、そっくりそのまま登場するんです。もちろんそっくりな俳優さんたちなんですが、『勝手にしやがれ』と同じモノクロの世界にするともう完璧に60年代のパリの風景に溶け込んで、まるでメイキング・ドキュメンタリーを観ているような錯覚にすら陥るんです。

これは映画通なら絶対的に必見ですよ。そしてこの映画からうかがえる一番重要なこと。いかに、ゴダールという映画監督が、トリッキーで自己中で破天荒で、それでいて類まれなる映画の天才、かつ哲学者であったのか。それがここにきてよ~くわかるんですね。ヌーヴェルバーグとは英語で言えばニュー・ウェイブ、新たな風という意味です。この映画を観ていると本当に新たな風を吹きまくってるなとニヤニヤしてしまうほど。もちんトリュフォーも出てきます。恐らくは彼の先駆的作品『大人は判ってくれない』(1959)においても同様の現場風景が見えたかもしれませんが、しかしゴダールはそこに輪をかけて変人ぶりが露呈しているので、よくこんな現場で一本の映画ができたものだと、さらに呆れ苦笑し、驚くのです。

とにかく 当時のフランスはパリにて、映画を愛し、映画で戦う若者たちの姿を是非スクリーンで御覧あれでございます。で、肝心のサウンドトラックはどうなんだというハナシなんですが、テーマ曲として引用、フィーチャーされるのが、フランスを代表するシンガー、リシャール・アントニー(リチャード・アンソニー)による1959年発表の楽曲、その名もまさしく「Nouvelle Vague」ですね。

最初聴いたときは、いやいやこんな主題歌作っちゃってちょっとダサくないか?と思ってしまったのですが、これがまたとんでもなくて全然かつての楽曲の引用だったんです。こんな歌があったのかと思うくらいでした。ひたすらに♪ヌ~ヴェ~ルバ~グと連呼して歌う、なんだかかわいい歌なんですけどね。この映画がなければあまり陽の目を見なかった曲なのではと勝手に考えたりしてしまいます。

そして、フランソワ・トリュフォー監督のデビュー作、先ほど紹介した『大人は判ってくれない』のサウンドトラックも劇中に登場します。

こちらはジャン・コンスタンティンによる名曲たちですが、これらがモノクロのパリの世界に流れるだけで、一気にあの時代にさかのぼるので、音楽の力とは本当に強い印象を残すものだと思います。

では本命作品『勝手にしやがれ』のオリジナルの音楽はどうだったかと言うと、マーシャル・ソラ―ルによるアグレッシブなジャズ・サウンドは今聴いても刺激的なサウンドなので、こちらも是非チェックしていただきたいサウンドトラックなんですね。

ヌーヴェルバーグの最初の作品と言われているルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』(1958)ですが、この作品の音楽はご多分に漏れずアメリカからマイルス・ディヴィスを呼び寄せて好きなように音楽を乗せてほしいと注文したものです。

映像を観ながら即興で作曲、演奏した、などといった逸話が語り継がれていますが、実際はラッシュフィルムを観ながらイメージを膨らませて、それを正式に楽曲化していった、ということらしいのですがね。

ゴダール作品のサウンドトラックは、その後ジャズから離れて残酷なほど美しいオーケストレーションの調べを多様化していきます。1965年の『気狂いピエロ』では音楽学者の肩書を持ち、心理学にも長けているアントワーヌ・デュアメルが音楽を担当したり、

同年の『アルファビル』では50年代からアラン・ドロンのデビュー作含め数多の映画音楽を手がけてきた重鎮ポール・ミスラキを起用したりと、一筋縄ではいかないさまざまなコンポーザーと映画でセッションをしていきます。

少しさかのぼった1963年のゴダール作品『軽蔑』でも、トリュフォー作品の常連であったジョルジュ・ドルリューを手中に収め、実に素晴らしい曲の数々を書かせているんですね。

とにかくドルリューの創り出すメロディーラインはとにかくゴダール監督作品の音楽クオリティーは生半可なものは一切なく、映像と音楽の見事なマリアージュを必ずといっていいほど見せつけてくれるのです。ヌーヴェルバーグ作品たちの音楽は、こうしてパッションに満ち溢れた、実に感情揺さぶるサウンドトラックばかりなので、あながち新しい波という動きは、映画だけではなく、音楽=サウンドトラックにも言えることなのではないかと思うのです。ではまた次回。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週土曜20時からOA中。是非聴いてください。湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9