このサントラ、ちょっとレア。第56回 ちょいちょい顔を出してくる80sロック&ポップスたちの件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』志田一穂が、今回もご案内させていただきます。

さて、今回は先日珍しく劇場で二回も観てしまった『サンキュー、チャック』(2024)のとあるシーンに触発されて、映画にちょいちょい引用曲として登場する80年代のロックやポップスを紹介したいと思います。

まぁよく言っていることですけど、80年代がリアルタイムで青春時代だった志田としては、果たしてこんなにキラキラちゃらちゃらしたキーボードのサウンドや、無機質極まりない打ち込みのビートなんかが、かつての60sや70sのネイキッドな楽曲たちのように、80sなんて呼ばれて再評価されたりもてはやされたりするものだろうか?と真剣に考えていた。そしてその答えとしては、きっとそんなことはないのだろうなぁ、ということでした。

やっぱり80sのサウンドってそれ以前の音楽のような一般的ではなかったんですね。ニューウェイブとかニューロマンティックとか、テクノやプログラミング・サウンドなんかは、それだけ聴くと新鮮でしたけどどうしてもそれらがその後の未来に残っていくとはおもえなかったんです。もちろん個人の見解ですが。

しかしふと気づくとゼロ年代くらいからちらほらと80sの楽曲たちが気にされ始めて、10年代ぐらいからは普通に映画の中で引用され、なんとなくぴったりフィットし始めたんです。例えば劇場でそうしたシーンを観ると、まず「え?」と驚きます。こんなベタな80sを選曲するなんて…と。だけど物語の中ではこれまたしっかり馴染んでいるんですね。

クエンティン・タランティーノ以降の監督DJスタイルが進化して、80sや90sを青春時代として過ごしてきた世代がなんの躊躇もなく好きな80s楽曲を起用するのは、それはそれで自然なことなんでしょうね。

なんてことを思いつつも、とは言え劇場で観ていて特にびっくりした80s引用曲、2作の作品から紹介いたしましょう。

まずは前述した『サンキュー、チャック』です。本作の映画としての完成度を語り始めるとそれはそれで長くなるので割愛しますが、物語の中で主人公の祖母がキッチンで料理をしているシーンがあるんですが、そのかたわらにはいつもラジオが置いてあって軽快な音楽が流れているわけです。

それにあわせてキッチンの様子を見ていた孫とともにダンスをするのですが、そのとき流れる曲が、ブリティッシュ・ロックバンド、ワン・チャンによる1982年発表の「Dance Hall Days」です。

この選曲にはぶっ飛びましたね。ワン・チャンはミュージック・ビデオに『ラスト・オブ・イングランド』の実験映像作家デレク・ジャーマンを起用するなど、映像製作にも力を入れていたバンドで、楽曲もとてもビジュアル的だと思っていました。80年代当時から映画への提供曲も多かったので(『ブレックファスト・クラブ』や『L.A.大捜査線/狼たちの街』など)、本作にさらっと登場してきたときのなんとナチュラルな馴染みよう。この曲にあわせてキッチンダンスに興じる祖母と孫の姿がとてもいいんですよね。

さてもう一本はちょっと前の作品、2018年のスティーブン・スピルバーグ監督『レディ・プレイヤー1』です。

これはもう冒頭からひっくり返りました。オープニングでいきなり爆音でヴァン・ヘイレンの「Jump」ですからね。そもそもスピルバーグ作品でこんな引用曲が流れること自体珍しいわけで、作品の内容が近未来のVR世界の話なので、楽曲だけでなくさまざまな映画やキャラクターやガジェットの引用が登場するんですね(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に『AKIRA』、『アイアン・ジャイアント』に『シャイニング』や『スピード・レーサー(マッハGo Go Go)』などなど枚挙に暇なし)。

なのでもう冒頭から本作はそういうものですよと宣言するかのように、ガツンとあのイントロが流れるわけですね。そうして観客はこの映画のコンセプトをいきなりインプットさせられるというわけで、まったく見事なまでのスピルバーグによる演出だと思います。これはもうそのオープニングを観るだけで価値のあるスピルバーグ映画です。

一瞬流れる80s楽曲とか他にもガンガンあるんですが、今回は特にガツンとくる引用曲を紹介しました。このテーマはシリーズにしていちいち紹介していきたいですね。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週土曜20時からOA中。是非聴いてください。