このサントラ、ちょっとレア。第55回 サー・ポール・マッカートニーが映画と絡んできた件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』1990年のポール初来日で心から号泣した志田一穂が、今回もご案内させていただきます。

さて、今回はポール先生がてがけた映画について語ってみようと思うのですが、どうしてかと言うと5月29日にポールのニュー・アルバム『The Boys of Dungeon Lane/ダンジョン・レインの少年たち』がリリースされたということで、であればこんなめでたいことはないので、彼が手掛けた映画音楽というのをピックアップして紹介し、発売を祝福しましょうというわけです。

一応ビートルズ狂の志田ということはこのコラムでも再三お伝えしていますが、もちろん各ソロもチェックしておりまして、特にポールは新譜が出ればマストバイしておる次第。前作はコロナ禍でワンマン製作した『マッカートニーIII』 (2020)。それから6年、ポールって本当に多作で、やや間を開けてもコンスタントにリリースしてきてくれたので特にこの6年のブランクに大きな違和感はないのですが、とは言え齢83歳になってもまだまだやってくれるなぁと一ファンとしては本当に驚きつつ嬉しくなりました。

さて、そんなサー・ポールが手掛けた映画音楽ですが、劇中にヒット曲を引用するとかは山ほどあるので割愛しつつ、やっぱり映画のためにオリジナルで書かれた楽曲たちを紹介したいのです。

まずは2001年、トム・クルーズ主演の『バニラ・スカイ』。なんとポールは監督のキャメロン・クロウに懇願され、この曲、同名タイトルの「Vanilla Sky」を提供しているんですね。でも実はこの曲、同年リリースされたポールのアルバム『ドライヴィング・レイン』製作中、最後に録音した曲だそうで、それならとアルバムと一緒に聴いてみると、これがなかなかの共通項激しい楽曲なのです。

というのも2001年と言えばやはり9.11同時多発テロ事件があった年。このアルバムも事件直後のリリースということもあり、メッセージ性の高い曲「Freedom」などが収録され、どこかブルーな気分をふっとばしていこう的な歌が目立ちます。「Vanilla Sky」という曲もどこか陰鬱でクール。陽気で楽しいポールのカラーは一切無い、逆に言えばとてもレア曲。しかもそれが映画のフィーチャー・トラックというのですから、本当にポールという人はフツーの枠に納まらないインディヴィジュアリズム溢れる人です。

お次は『イルマーレ』(2006)ですね。もともと2000年製作の韓国映画がオリジナルで、中身はと言うと時空を超えたラブ・ストーリー。とくればポールの十八番、変化自在なコード進行で涙腺のツボを突いてくるバラードが似合うというものです。

ビートルズ最後のシングルとして発表された「Now And Then」のイントロに酷似しているのもファンにとってはたまらないチェックポイント。そんなフレーズで始まるこの曲「This Never Happened Before」は、そのパートだけではなく、どこかビートルズ時代の楽曲のフレーバーが全編に散りばめていて、かなりの名バラードに仕上がっています。余計なサウンドを付け足していないところもとても良くて、シンプルに響くからこそファンタジックな恋愛映画にジャストフィットしているんですね。これは映画にとってとても幸せなことです。

というのも、そもそもこの曲が収録された『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード〜裏庭の混沌と創造』(2005)自体が、とてもパーソナルなコンセプトになっていて、前述した『マッカートニーⅢ』の、いわゆる “マッカートニー・シリーズ”で培われた、オール・ワンマンで演奏し創り上げていく製作方法と同じかたち。だから自ずとサウンドも極力削ぎ落されたネイキッドなスタイルとなって、聴く側へとてもセンシティヴに響いてくるのです。主旋律も自然とメロディアスになっていった印象もあり、アルバムを通してこの「イルマーレ」のテーマ曲もしっかり見事に馴染んでいるのですね。

続いてはこれもなかなかのレアな立ち位置にいる楽曲。映画は2009年のアメリカ映画『みんな元気』で、主演はロバート・デ・ニーロにドリュー・バリモアというガチガチなハリウッド・ムービー。でもこれもリメイク作品で、オリジナルは1990年のイタリア映画『みんな元気』

こちら、監督があの『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレということでなかなかの名作として世界中に愛された作品なのでした。しかも名匠エンニオ・モリコーネ御大が音楽を手がけているということで、リメイク版テーマ曲を依頼されたポールとしては、本作の「家族の大切さ」というテーマに共感したということもありますが、映画の音楽を担当したイタリアのコンポーザー、ダリオ・マリアネッリに協力を請いながら、オリジナルに負けずとも劣らない、心にしみるバラードに仕上げたということです。

この曲はオリジナル・アルバムには未収録で、2022年にリリースされた『The 7” Singles/Tracks159』にようやくインされました。

というわけであえて映画提供オリジナル曲で志田のお気に入り3曲を紹介しましたが、最後に冒頭お伝えしたニュー・アルバム『The Boys of Dungeon Lane/ダンジョン・レインの少年たち』のことを少しだけ。一聴し、このひとは本当に83歳?と大いに疑ったパワフルでパンチのある傑作でした。幼少期から少年時代までを育ったリヴァプールの想い出たちを振り返りながらも、だけど今はこうだぜ、まだ歌っているんだ、という力強いメッセージ。年齢を重ねて回顧的になるわけではなく、まさにナウ・アンド・ゼンを自分の経験値で見事にミックスし作り上げるという、ある意味偉業的なアルバムではないかと。しかもサウンド・メイキングにちょっと実験的なアプローチもあり、そうしたアヴァンギャルドなサウンド・コラージュも大好きなポールの味がちょっとですが感じることができて志田としては大満足したのでした。もちろんポール流ジャムってノレるロックナンバーも惜しみなく点在。お薦めです!

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週土曜20時からOA中。是非聴いてください。