このサントラ、ちょっとレア。第54回 今はただ、大野雄二さんを追悼する件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』志田一穂が、今回もご案内させていただきます。

さて、今回はなかなかつらいコラム。作曲家でありジャズ・ピアニストの大野雄二さんが先日永眠されたのでその追悼コラムになるからです。実は志田は大野さんにかつて大変お世話になったことがありまして、ちょうど明日の湘南ビーチFM「seaside theatre」でも追悼特集をOAするのですが、こちらでも気持ちを整理しながら大野さんが手掛けた気になるサウドトラックを紹介し、追悼したいと思います。

大学時代からジャズ・シーンにてデビューした大野さんですが、70年代に入ってからは作曲家としてCM音楽やテレビ番組のテーマ曲を手がけるようになります。映画音楽は郷ひろみと秋吉久美子のW主演による1976年の『さらば夏の光よ』からですが、何と言っても時代にフィットして一世を風靡したのが、かの角川映画第一作の『犬神家の一族』(1976)でした。監督の市川崑は本作の大野サウンドを、当時としては斬新すぎて気に入らずダメ出しした、というエピソードがあるほどですが、一方では日本映画界に対して新たな風を劇伴で巻き起こした重要作と評されもしました。

それまでの日本映画の音楽と言えばおおよそがオーケストレーションによるもの。しかし大野さんは信頼のおけるスタジオ・セッション・ミュージシャンたちとともに、まったく聴いたことのないようなフュージョン・サウンドを映画音楽として創り出したのです。80年代前夜に相応しいこのサントラの評価は、翌年1977年にスタートする『ルパン三世』新シリーズの音楽や、同年の角川映画第二作『人間の証明』、そして1978年の『野性の証明』の音楽でも引き続き絶賛され、確固たる地位を築きあげるだけでなく、まさに、新時代サウンドの騎手として君臨していくことになるのです。

しかし、いまさらこのあたりの名曲たちを紹介するだけでは他の追悼記事と変わりません。ルパンはともかく角川映画などはもう既に往年の作品群ですし、その音楽を誰が担当しているかなど、もはや気にならない時代になってしまっています。それであればだからこそ、こうした機会に一般的にあまり知られていない大野ワークスも記録しておきたいなと考えるのです。でも多分「それ知ってる、聴いたことある」といった作品なのかもですが。

当時大野さんは日本テレビ作品での活躍が目立っていて、70年代は石立鉄男のドラマシリーズ(1971~1978)や、火曜日の女シリーズ(1971~1973)、土曜日の女シリーズ(1973~1974)、愛のサスペンス劇場(1975~1977)など、多くの音楽を担当されていました。そして1978年、今でも続いている夏のチャリティー番組「24時間テレビ」がスタートし、トータル・テーマ曲はもちろん、手塚治虫総指揮によるスペシャル・アニメ(1978~1983)の音楽も大野さんが手掛けることになるのです。

その第二回目のアニメ作品『海底超特急マリン・エクスプレス』(1979)にて、同名テーマ曲を歌ったのがゴダイゴのドラマー、トミー・スナイダーでした。どうしてそんなタッグが実現したのかと言うと、ドラマ『西遊記』でブレイクしたゴダイゴもまたこの日本テレビ界隈で活躍していたので、大野さんとゴダイゴはとても深い関係になっていたとのこと。しかもボーカルのタケカワ ユキヒデを起用せず、トミー・スナイダーに歌わせること自体がとても奇異で特殊な印象でした。しかし出来栄えは素晴らしく、自分の楽曲には彼の声が合うだろうと直感した大野さんの感性の賜物的名曲になったのではと感じます。

特に日本テレビの専属作曲家でもなかったので、他局の番組でも多くのテーマ曲や音楽を手がけられていた大野さんですが、いまだに人気がある、だけどレアな作品と言えばやはりNHKの朝ドラ「マー姉ちゃん」(1979)ではないでしょうか。

子供ながらに鮮明に憶えているのですが、このドラマのオープニング・テーマ曲を聴いたとき、無性にわくわくしたのです。これはかなりあとになって、やはり朝ドラの「あまちゃん」(2013)のテーマ曲を聴いたときに、マー姉ちゃん以来のわくわく感だなと思ったことがあり、それぐらい朝ドラ的にはいい意味で “異端な音楽”ではなかったかと思うのです。「マー姉ちゃん」は原作が「サザエさん」の作者、長谷川町子さんの自伝マンガ(「サザエさんうちあけ話」)によるもので、内容もコメディ・タッチだったので、そのあたりのカラーリングを大野さんは見事に音像化されたのだと思います。

この「マー姉ちゃん」ではたまにイメージソングがラストに流れるのですが、その曲「手のひらは小さなシャベル」(歌は岩崎宏美)もまた大野さん作曲によるもの。角川作品やルパンといったエッジの利いた楽曲を手がけた方とは思えないほどの優しさに溢れた名曲です。

1979年にはルパンシリーズのイメージ大転換となる傑作『ルパン三世 カリオストロの城』が公開されますが、この作品の中で、ルパンがカリオストロ公爵の城の頂きへと昇り、そこからふとしたことから全速力で屋根を駆け下り、その勢いでジャンプを繰り返して目的のクラリスが幽閉されている塔に辿り着くというシーンがあります。そのときの、ジャンプしたタイミング流れる効果音のようなサウンドを憶えているでしょうか。きゅい~ん、というアレです。

本編冒頭でも一瞬出てくるのですが、あの音を作り出すのに、当時は結構苦労されたそうで、要するにきゅい~んとウネリながら短音から短音に繋がるエフェクトは、あの時代(70年代後半)にはなかなか至難の業だったようなのです。で、イメージ通りの音ができたということで、なんとそのきゅい~んを、大野さんはご自身のソロ・アルバムにも収録、フィーチャーしているのです。

それがこのアルバム「SPACE KID」(1978)で、このA面二曲目となる同名曲「SPACE KID」で例のきゅい~んが聴けるのです。ここで疑問なのが、このアルバムリリースの方が「カリオストロの城」よりも先だった、ということです。大野さんが楽しそうにこのエピソードを話してくれたとき、それが「カリオストロ」の話をしていたときだったか、または「SPACE KID」の話をしていたときだったか、定かでないのです。同時期に作り上げたサウンドでしょうが、きっと時期的には後者でしょうね。だけどやはり今はあのジャンプの音はカリオストロのイメージが強いと。サントラではないですが、大野さんのソロ・アルバムも聴いていただきたいというハナシ。

大野さんにはたくさん楽しい音楽エピソードをお聞きしましたし、あわせてよく仕事の面で叱られました(笑)。僕が一緒に仕事をしていた時期はジャズ・ピアニストとしての意識が強く、とにかくジャズを勉強しろと厳しく言われていました。毎晩のようにジャズ・スポットで演奏されていたのでずっと立ち合って聴き続け、理解しようとするのですが、ロックや歌謡曲育ちの自分には本当にしんどい時間でした…。ジャズが凄い音楽だとは理解していた気はしますが、自分の感性にはなかなか響かなかったので、大野さんの期待に応えられずもどかしさがいつもありました。しかし一度だけ褒められたのは、毎年製作されるルパンのテレビスペシャルの主題歌を歌うボーカリストに、あるアーティストを推薦してみたら「いいじゃん!」と一発OKをもらったのです。その主題歌が収録されているCDがこちら。

そのアーティストとはカヒミ・カリィさんでした。大野さんが張り切ってフレンチ・バラッドを作曲されて、いくらルパンが多国籍系の作品とは言え、またまた新しいタイプの曲が生まれたなぁととても嬉しく思ったものです。そのとき、そうかジャズだけにこだわらずで付き合っていっても良いのだなとも思いましたね。

大野さん、ありがとう。どうか安らかに。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』こちらは毎週土曜20時からOA中。是非聴いてください。