このサントラ、ちょっとレア。第4回 使用料高額でもやり方一つでリスペクトな件

レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画大好き志田一穂がご案内してまいります。

今回のサブタイトル、なんだかいやらしいですよね。高額な使用料って一体何の?と思われたかもですが、これは楽曲を映画などに二次使用する料金のことを指してまして、その楽曲がビッグ・アーティストになればなるほど高額になったり、あるいはそもそも使用許諾などそう簡単に出せませんよ?となったりするわけです。90年代あたりから既成曲を映画にバシバシ使うクエンティン・タランテイーノのような、極めてマニアライクな監督が登場したりしたことで、その流れが通例化していくようにもなっていったのですね。結果、一曲一曲の使用権利を処理していく“マッチメイカー”という専門スタッフまで生まれるに至りました。

で、この使用料問題で苦肉の策をとったことにより、逆にこれレア・サントラじゃん!となった楽曲をご紹介したいのが今回です。まずは伊坂幸太郎原作のミステリー小説を映画化した『ゴールデンスランバー』(2007)ですね。出ました、ビートルズ楽曲からの引用タイトルです。もちろん小説の中にもこの楽曲が登場しますし、他にも「ヘルプ!」や「カム・トゥゲザー」なども出てきます。伊坂先生は小説「チルドレン」や「モダンタイムス」にもビートルズ楽曲タイトルを登場させたりしていますが、別にこれ小説の中の文字オンリーだから権利的には特に問題ないんですね。まぁ歌詞とか出したら要許諾ですけど。なので、小説はいいですよね。タイトル引用だけで読者は頭の中で楽曲を奏でられるのですから。でも映画化となるとそうはいかない。これホンモノの楽曲を使わないでどうするんだ?という話になる。たとえば村上春樹原作小説を映画化した『ノルウェイの森』(2010)などは、なんとしてでも使用許諾をゲットしなくては!と交渉して(お金を積んで)奇跡的にGOサインが貰えた、なんていう例外もあるにはあります。しかし、とにかくビートルズの楽曲使用は特段にハードルが高いので、基本的にはまず超難関と言わざるを得ないわけです。

じゃあ『ゴールデンスランバー』はどうしたのかと言うと“カバー”したんですね、本作の音楽を担当した斉藤和義さんが英語詞で歌ったのです(もちろんカバーでも要許諾ですがまだマシ)。斉藤さんはアコギだけで「ゴールデンスランバー」のインストバージョンも作ったりと、とにかくこの映画に相応しい音楽を作り上げたと。なんだビートルズのカバーなんて皆やってるじゃんという声もあるかもですが、いえいえ、「ゴールデンスランバー」をカバーするってことは本来なら「~キャリー・ザット・ウェイト~ジ・エンド」までガッツリいくのが普通、というか常識。もっと言えば義務じゃないですか(ビートルズをリスペクトしているならよ)。第1回で紹介した『ハッピーフィート』のk.d.ラングだってちょい端折ったけど「ジ・エンド」まではカバーしていますし、『SING/シング』(2017)で登場する羊のおばあちゃんですら「キャリー・ザット・ウェイト」までカバーして歌っているんですから。それをこの映画のタイトル通り、「ゴールデンスランバー」オンリーで斉藤さんは完結させたわけですよ。尺短くてちょっと寂しいですけど、でも割り切ってメドレーにせずやりきったわけです。斉藤さんの記念すべきデビューシングル8cmCDが「僕の見たビートルズはTVの中」(1993)って曲なくらい、ビートルズを意識しているんだろうなぁと思わせる、あの斉藤さんがですよ。消化不良だっただろうなぁと、ついつい思ってしまうのです。でもだからでしょうか、熱が入った歌唱がめちゃくちゃイイんです。貴重なビートルズ・カバー、そういう意味でレアだと思うのです、これは。

なんだか辛く切ない感じになってしまいましたが、気を取り直して、お次は川本三郎さんの回想録「マイ・バック・ページ」の映画化作品についてです。

この2007年の映画『マイ・バック・ページ』の舞台は60年代後半から70年代前半の安保闘争や学生運動が盛んだった頃でして、そうなると当然タイトルは「あぁボブ・デイランのあれか」と。アルバム「アナザーサイド・オブ・ボブ・デイラン」(1964) 収録曲の「My Back Pages」。これだって小説タイトルに引用しているくらいだから、当然オリジナル曲を使いたいと、映画化に挑むスタッフ諸氏は熱望したことでしょう。

が、ディランもビートルズも同じで、なかなか厳しいねぇ…というわけでして。そこでまたカバー作戦なのです。もともとこの曲を真心ブラザーズが2000年にカバーしていたので、それをリニューアルさせて、そこに奥田民生さんも合流してもらうのはどうかと。つまりコラボ曲としてリメイクするという、かなりいろいろな切り口を足して、考えに考えた上でのカバー作戦だったのではと受け取れるわけです。結果、奥田さんが英語詞、YO-KINGさんが日本語詞と、どちらのパートも採用して録音するという、ちょっと他に無い、結構個性的に生まれ変わったディラン・カバーとなったのですね。(なぜかジャケはビートルズのホワイトアルバム仕様だけど…)

しかしこのカバー曲にはさらに前日譚がありまして、実は真心ブラザーズとして歌ったもともとのカバーが、既に2003年の映画『ボブ・ディランの頭のなか』で使用されていたのです。この映画自体、ディランが脚本と主演を務めたという極めてストレンジな作品なのですが、サントラがすべてディランのカバー曲という異色作でもあり(本人歌唱も多少はある)、驚くべきことにそこへ日本から真心ブラザーズの曲が選出されたと。まぁ間違いなくディラン本人による選曲だと思うのですが、しかし果たして、これが日本アーティストとしての快挙なのか、はたまたアジアからの珍しモノ扱いなのか、はっきり言ってよくわからない起用なんですが、とにかくこの「マイ・バック・ページ」というカバー曲は、真心版にせよ映画版にせよ、いずれも「お主らかなりレアよのぉ」と言わせしめる重要曲だと思うのであります。

しかしながら本当にディランの曲使用は難しいのか?と問われれば、別にそんなことはないんですね。使用料さえしっかり支払えばきっと使えます。それはビートルズだって然り。だけど、併せてアーティスト本人が「いいよ」と許諾しないと本当のGOサインにはならないのでしょうね。なので高い使用料も工面して、アーティストからもOKもらえた、などという作品があればそれはもう原作者や監督、プロデューサーにとってそんなウレシーことはないんですね。で、最後に紹介したいのがそんな奇跡的な映画。みうらじゅん原作、田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本、そして峯田和伸主演による『アイデン&ティティ』(2003)なのです。本作の主題歌は、なんとディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」。これには当時映画業界も音楽業界もひっくり返りました。使用する上での交渉テクニック、裏技等いろいろあった筈…と推測しますが、結果としてこの曲が日本映画の主題歌になったということは、新譜タイアップ曲を無理矢理乗っけた、本編と曲の親和性ゼロな映画たちとは格段に違う存在感がありました。高額使用料問題は永遠に避けられないものですが、結局最後はリスペクトする気持ちが大事、とも言えるのではないでしょうか。

オマケです。忌野清志郎のタイマーズがモンキーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」を日本語歌詞でカバーして、それをアニメーション映画『ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』(2017)で主人公の声を演じた高畑充希さんが役名の森川ココネ名義でさらにカバーしているという、あぁ説明長くてすみません。でもつまりそういう楽曲がサントラとして何気に存在しているんですね。

そしてこの楽曲、高畑さんの歌唱力はミュージカル舞台出身だけあって相当にイイので、結構オススメな一曲なんです。心、洗われる系。清志郎さんの日本語歌詞もそもそも素晴らしいですしね。こんな変化球レア・サントラも是非ご一聴のほど。

では今週はこれにてドロンです!次回カッキンは7月5日UP~

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志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲(何をかけるかはお楽しみ)を、7月7日20時からの番組にてOAいたします!こちらから聴いてね! 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9