このサントラ、ちょっとレア。第3回 そもそもカオスな移民の歌が尚もディープな件

レアとおぼしきサントラを独断でばしばし紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』。今回も映画大好き、志田一穂がご案内してまいります。

今回フィーチャーしたいのはトレント・レズナーとアッティカ・ロスの超ディープなサントラ・ワークスです。この二人と言えばインダストリアル・バンドの雄、NINE INCH NAILS (以下NIN)の中核メンバーですが、最近は二人の連名義で、随分と映画音楽界に横槍をぶっ刺しているんですね。とにかくそもそもがハードなサウンドで各所を爆撃していた二人ですけど、面白いことに、ことサントラ・エリアになるとめちゃくちゃカオス&アンビエント。え、これがあのNINの人たちが作った映画音楽?全然モッシュにダイヴにスクリームじゃないじゃん!と眉間に皺な感じなのです。

だけど志田としてはそれがイイ、と思っているんですね。混沌を極めた00年代の音楽界を経て、10年代に編成されたこのレズナー&ロス名義によるサウンドトラックこそが、時代を色濃く反映させた、シン・映画音楽ではないかと。映画や映画音楽というものは、時代の移り変わりによってどんどんブラッシュアップされてきた、いわば時代の鏡とも言える存在なんですね。単なるBGMからオーケストレーションとなり、やがて様々なジャンルが時代の流れとともに枝葉となって分かれたり、あるいは融合していったりしてきたわけです。そしてここにきてレズナー&ロスによるとても個性的な映画音楽が現れました。恐らく、今現在はまだ特異な存在として扱われているだけだと思うのですが。

しかし、映画音楽史で言うと、例えばジャズを映画に取り込んだアレックス・ノース(『欲望という名の電車』)やヘンリー・マンシーニ(『ピーター・ガン』)。シンセサイザーを取り入れたウォルター・カルロス(※現・ウェンディ『時計じかけのオレンジ』)やラロ・シフリン(『燃えよドラゴン』)に、ジョルジオ・モロダー(『ミッドナイト・エクスプレス』)やヴァンゲリス(『ブレードランナー』)。さらに、ソウルのクインシー・ジョーンズ(『夜の大捜査線』)もそうですね。ジャズからクロスオーバー、フュージョンといった進化形で映画へと参戦したデイヴ・グルーシン(『ジャスティス』)に大野雄二(『人間の証明』)もいらっしゃいます。新しい地平に踏み出したアーティストたちというのは、年月が経ったときに必ずその重要性が認められるもの。レズナー&ロスが、まさしく未来におけるそういう存在だと思っているのです。

さて、とにかくそんな彼らのレア・サントラを紹介しなければです。まずは2010年の『ソーシャル・ネットワーク』。あのSNS「Facebook」を開発したマーク・ザッカーバーグの伝記映画ですね。そこにレズナー&ロスが初のサントラ登板ということで否応にもNINのラウドでオルタナなサウンドが期待させたわけですが、考えてみたら中身はSFでもアクションでもない、ある意味ジメジメとした人間ドラマ。これ、そもそもかなり異例な起用だったのでは?と当初は困惑しましたが、しかし…フタを空ければとてつもなく脱力感に満ちながらの美しいアンビエント・サウンドではないですか。なんだこの音楽!音響は!?と、当時映画館でビビりました。それはまるで、新時代ネットワークの大海原へなすがままに巻き込まれ、ひたすら漂い続けるような、そんな音の連なりというか。それが監督であるデヴィッド・フィンチャー(『セブン』『ファイト・クラブ』)の、異質でありながら的確な映像描写と絶妙にマッチしていて、これはかつてのフィンチャー作品から相当にグレード・アップした名作だ…と興奮してしまいました。

レズナー&ロスは、このように深夜のラジオなんかであれば絶対的にチルってしまうようなサウンドでサントラ・デビューを果たしました。カッコいいですよね。まるでゆら帝が突如リラクシンなアルバム『空洞です』を出して、その後の坂本さんソロがディープメロウへ一直線みたいな。だけど芯はブレていないという。しかもレズナー&ロスは映画音楽という別ステージでその変革を成立させてしまったと、いやはや本当に凄い時代になったぞ、と思っていたら、このサントラ、同年のゴールデングローブ賞とアカデミー作曲賞まで受賞するという快挙を成し遂げてしまいまして。あぁ、やっぱりいきなり新しい時代が来ちゃったんだなと思い、開いた口もふさがりませんでした。

そして次に音楽を手がけたのも、再びデヴィッド・フィンチャー監督による『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)です。あのレッド・ツェッペリン「移民の歌」が、尚もディープなサウンドとなってオープニングから攻撃してくるというスカッドミサイル的アプローチ。ボーカルがYeah Yeah Yeahs のカレンOというのもマニア心をくすぐるキャスティングで、なかなかなレア・サントラ・トラックです。もともとオリジナルも強烈でカオスな曲ですが、レズナー&ロスはカオスはカオスでも、一音一音がいちいち深く、プチ・トランス的な攻め方なんですね。クールでダークでディープでっていろいろ形容してしまいますが、やっぱりこの二人、基本おっかないっス

さらにフィンチャーとのタッグが続く3作目が『ゴーン・ガール』(2014)です。ここでもレズナー&ロスによるノイジーでコンフュージョンなアンビエント・サウンドが全編を支配しておりまして、メロディーはこんなに落ち着いているのに、なぜ気持ちはめちゃくちゃ不安に襲われるのよ、と。逆にこんなにインダストリアルなのに、たまに救済チックな一筋の光を差し込んできて、急になんだよ泣きたくなっちゃうじゃないかよ、と。この『ゴーン・ガール』の音楽集とはそんな印象でして(どんなでしょうか)、もうここまで来るとサントラ・アルバムというよりは、近未来ニューエイジというか(ニューエイジは古いか)、あるいは間もなく実現するであろう、宇宙旅行の時によく似合うBGMと言えばこれだ!的な完成度なんですね(要は未来のエレベーターミュージックなのか)。

さて、ちょっと今回の原稿もカオスってきましたのでそろそろ中締めを。やはりこれらレズナー&ロスのサウンドが、かつての往年のオーケストレーションでメロディアスな名曲たちと同じジャンル、すなわち「映画音楽」として同列に並べられるのか?と言う話なんですね。そう問われれば、確かに「まぁ無理があると言わざるを得ない」となるんです。ここまでサウンドトラックが進化してくると、前述したように慣れるまでにはかなりの時間を要するのではと。なのでここは一つ、いろいろとよくわからない形容をしてきましたが、「かなり新しい音楽を映画で聴ききましたわ」ぐらいに受け止めておいていただきたいと。とは言え、時代の生き証人としてしっかりとチェックしておいてもいただきいと。今はそうお願いしておく所存であります。

最後にオマケを一つ。「移民の歌」のようなロック・クラシックで、他にも映画の中でいきなり飛び出てあぁビックリ、みたいなカバー曲はなかったかなと。はい、ありましたね。マーベル・シリーズ、スカヨハ主演の『ブラック・ウィドウ』(2021)にて、ニルヴァーナの名曲「Smells Like Teen Spirit」がやはり絶望的混沌バージョンとなってカバーされております。

こちらのトラックも映画のオープニング/タイトル・クレジットで登場するのですが、これがまたフィンチャーの『セブン』のようなタイポグラフィとフラッシュ映像による構成でして、そう考えるとこれらの世界観、90年代のデヴィッド・フィンチャー登場から、脈々と一つの映画文法として踏襲され続けているということかな?なんて思ったり。そういえば『セブン』のオープニングで使われている楽曲もNIN「CLOSER」だったじゃないですか。しかもリミックスしているのがインダストリアル系のCOILでした。なるほどやっぱりそもそもそこらあたりから、しっかり始まっていたのですね

では今週はこのへんで。次回カッキンは6月21日UPです!

recommend

『Immigrant Song~移民の歌』Trent Reznor & Atticus Ross feat. Karen O

>>>CD/Vinyl(『The Girl with the Dragon Tattoo』OST), Apple Music, Spotify

『Smells Like Teen Spirit Malia J』Malia J

>>> Apple Music, Spotify

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲(何をかけるかはお楽しみ)を、6月23日20時からの番組にてOAいたします!こちらから聴いてね! 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9