レアとおぼしきサントラを独断でばしばし紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画大好きDJの志田一穂がご案内してまいります。
さて、いきなりですが「Polk Sarad Annie/ポーク・サラダ・アニー」というカントリー曲をご存じでしょうか。アメリカのシンガー・ソングライター、トニー・ジョー・ホワイトによる1968年の楽曲で、あのエルヴィス・プレスリーにもカバーされた人気曲でございます。
この曲、まぁ映画音楽でもなんでもないんですが、ではなぜ紹介するのかと言うと、注目すべきはこの曲の、もう一つのカバー曲なのです。レジェンド・ギタリスト、ジェームズ・バートンによる、1971年発表のアルバム『The Guitar Sound Of James Burton』に収録されたA面一曲目がまさに「Polk Sarad Annie」のカバーなのです。
これがトニー・ジョーのオリジナルを遥かに凌ぐグルーヴ・アレンジ。リズム・セクションのBPMはカントリーのゆるいテンポを完全に無視して(歌詞も無視、つまりインストです)、さしずめサーフィン&ホットロッドなノリに大変身。要は最高にアガるバージョンにしてくれているのですね。カバーするならこれぐらいやってくれ、の代表みたいな曲です。
で、そもそもこのアルバム『The Guitar Sound Of James Burton』には、あの「Johnny B Good」や「Mystery Train」といった名曲たちも超絶ギター・グルーヴにアレンジされてました。別にそれらを『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のJohnny Bや、ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』(1989)などに無理やり結び付けて「どうですレアでしょう?」と言うわけではありません。
じゃあ何かと言えば、再び注目すべきが2019年の映画『フォードvsフェラーリ』のサントラなのです。急にカー・レース映画?とお思いでしょうが、この映画で登場するのがまさにジェームズ・バートンの「Polk Salad Annie」。しかもこの映画用に新規でリミックスされ、さらにパワーアップしたバージョンに進化しているわけです。なるほどホットロッドなバートン・カバーのノリを、カー・レース映画にブッこんだわけか、と納得するぐらいの出来栄えなのですね。
このリミックス、劇場の大音響で聴いたときは本当に度肝を抜かされました。そもそもがレーシング・カーの戦いを描いた作品ですから、車の爆音もドルビーアトモスでド迫力なのですが、そこにこの“Polk Saladリミックス”が被さると立ち上がりたくなるくらい爆アガりいたしました。楽曲の母体は変わりませんが、まずベースのブリブリ度が思いっきりボトムアップされグルーヴ感が尚も炸裂。あわせてホーン・セクションのパートもレベルが押し上げられて一気にファンキー節に。これが強烈なアクセントとなって、まるでギア・チェンジし一気に加速するような勢いを、このリミックスは実現させているんですね。カントリーのユルくイナたいあの曲が、こんなかたちで映画で活躍するとは…。いやはやなかなかのレア・サントラなので是非チェックしていただきたいです。
余談ですがレース映画と言えば、先日ようやく『グランツーリスモ』(2023)を観て、そのときも再確認したのですが、レース映画に使われている挿入曲たちってなかなか注目すべきトラック満載で勉強になるんですよね。
ケニー・ビーツの「Hold My Head」、ジュビリーの「Peak」といったビートの効いた曲や、いきなりパンク?ハード・ロック!?と思ったらイギー&ストゥージスの「Search And Destroy」や、ブラック・サバスの「War Pigs」だったり。と思ったらメロウの大御所、ケニーGの名曲「Songbird」がすべてを持っていってしまったり(笑)。知ってる曲知らない曲どちらであれ、発見やリマインドを与えてくれるという、本当に昨今の洋画自体がそうなのですが、とにかく既成曲使用が目立つ作品が多いこと。特にレース映画というのはやはり演出上グルーヴィンな楽曲が多々登場するので、それこそ劇伴(BGM)も含め、DJユースなサントラだったりすると感じております。
オマケにもうひとつ。2008年の映画『スピード・レーサー』もなかなかスミに置けないレア・サントラなのでレコメンド。
これご多聞にもれず日本のかつての人気アニメ『マッハGoGoGo』(1967~1968)のハリウッド版実写リメイクですが、この中でもしっかりとオリジナルのアニメ主題歌をカバーしてくれているのです。アレンジ・プロデュースはやはりカー・レース映画『カーズ2』(2011)をはじめ、多くのハリウッド大作の音楽も担当しているマイケル・ジアッチーノ。たかがアニソンされどアニソンと言わんばかりにカッコよくアレンジしてくれております。(『カーズ』シリーズのサントラは改めて紹介したいのでお楽しみに)
さて、そんなわけで今回はカー・レース映画サントラをいろいろと紹介してまいりました。古くは70sサントラ『栄光のル・マン』(1971)のミシェル・ルグランによる音楽、『レーサー』(1969)のデイヴ・グルーシンによる音楽といった、情感豊かな楽曲たちも素晴らしいですし、80sになるとドタバタレース映画の『キャノンボール』(1981)もありまして、主題歌はレイ・スティーヴンスによるパワフルなロック・トラックだったり。時代時代によってもカー・レース映画サントラ、要チェックなのであります。
とにかく、かつてからスピード狂たちの映画には、気持ちを揺さぶる曲たちが詰まっているということなんですよね。
では今週はこのへんで。次回カッキンは6月7日UPです!
recommend
『Polk Salad Annie(Ford v Ferrari REMIX)』
>>>CD/Vinyl(『Ford v Ferrari』OST), Apple Music, Spotify
志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲(何をかけるかはお楽しみ)を、6月2日20時からの番組にてOAいたします!こちらから聴いてね! LISTEN NOW ラジオを聴く | Shonan BeachFM 78.9