今回は試写で観て、これは久々なかなかクールで熱いロックな映画だ!と嬉しくなってしまった作品『ザ・バイクライダーズ』をご紹介。
もちろんサントラもエッジが利きまくっていて、ちょっとこだわりに満ちているからこそのレコメンドなんですが、この中身、9割が既成曲、つまりもともとあった曲ばかりを引用しているんですね。
まぁ近年こうしたほぼ全部既成曲で構成ってパターンは特段珍しくなくなってきてますが、そもそもは90年代からタランティーノが蒔いた“映画の音楽はもっと自由でいいんじゃね?”という種が、年月を経てしっかり発芽してすくすく育ってきたってことだと志田は分析しているんですけど、それでも2010年代ぐらいからはそうしたパターンと共に、いやいやそれでもやっぱり既成曲の拝借許諾って結構予算とられるから、だったら自分らでその既成曲をカバーして新たに作っちゃった方が結果的に安いんじゃね?ということに気づき、皆知ってる名曲や人気曲などを新鮮なカバーソングとしてリメイクし映画の中で楽しめるという、また新たなお楽しみポイントが増えていった、なんて流れも出てきてですね、そうした最早“サントラカオス時代”に突入している状況だと、現在は思っているんですね。まぁそれはともかくですが。
そんな中出てきたのが今回ご紹介の『ザ・バイクライダーズ』ですよ。そもそもタイトルからして潔いですよね。B級アクション映画かよと思いつつ、いやいやB級映画でもこんなドストレートなタイトル付けないでしょと。でもいただいた試写状のビジュアルもカッコイイし、とにかく観てみなくちゃ始まらないと観てみたらもうスゲェかっこイイ映画でしたね。久々『バッファロー’66』(1998)的匂いも感じつつ、だけどこれ結構『ランブルフィッシュ』(1983)じゃん、『ドラッグストア・カウボーイ』(1989)じゃんと。要するに懐かしのマット・ディロン兄貴的なクールさ大爆発じゃんと。それぐらい主演のオースティン・バトラーがカッコ良すぎということもあるんですが、それより何よりバイクに乗って仲間たちと組んだチームで走り回っていることが生きがいみたいな連中の群像劇もまたとにかくイイんですよ。
これ、当時のルポ&写真集をベースにしたノンフィクション映画なんですが(60年代後半から70年代にかけて実在したバイカーたちの手記をまとめた書を元に映画化している)、そんな実際にあったであろう物語に合わせて選曲された絶妙なオールディーズやロックやソウルも最高で、これはサントラを買って聴きながらバイクで疾走するしかないぜ!と思わせるほど痺れた作品でした (バイク持ってないけどな)。
で、前置きが長くなりましたが劇中出てくるレア度炸裂な既成曲=引用曲のご紹介。
I Don’t Worry Myself Johnny Adams
強烈なファルセットの雄叫びから始まるソウル・グルーヴは、名盤にしてデビュー・アルバム、1969年「Heart & Soul」からのチョイス。この曲をバイク軍団の爆音とともにがなり立てられたらもうアウトでした。大体ジョニー・アダムスを映画の中で聴いたことなんて初めてではないかなと。最高のコラボシーンです。
Baby Please Don’t Go Them featuring Van Morrison
こちらもヴァン・モリソンの絶叫ボーカルが男たちを煽りに煽りまくるドライなロックンロール。1964年にリリースされたシングル曲ですが、こちら皮肉にもB面の「Gloria」の方がヒット(パティ・スミスやU2のフレーズ引用が有名)。でも個人的にはこちらの方がゼムらしさを感じてたりして。大元はデルタ・ブルースのカバーで、要するにアイリッシュ・ロックとアメリカン・ブルーズは濃密に繋がっていたということ。(ヴェンダース映画味も感じますな)
Talkin’ Bout You The Animals
Talkin’ Bout You=おめぇのことだよ!と繰り返し叫ばれるこの歌。劇中登場するバイク(モーターサイクル)チーム“ヴァンダルズ”の仲間たちが言い合っている姿と重なり、荒くれ者たちですが仲間だけは大事にするということを第一とするチーム、ということも伝わってくるのです。それにしてもけしかけるような歌ですし、こんなベスト盤にも入らないような曲をピックアップするセンスたるやですよ。(1964年の名曲「朝日のあたる家」B面曲です…)
I Feel Free Cream
泣く子も黙るクリームの名曲ですね。彼らの曲がかかるとスコセッシ味が一気に轟きますが、本来1966年というアメリカ全土がベトナム戦争や公民権運動でごった返していた真っ只中でリリースされたシングル楽曲。“オレは自由に溢れている”という、なんとも反抗的かつ真っ当なメッセージ。当然行く当てもなくただ自由に走り続けるバイカーたちのための曲でもあったのですね。まるで『イージー☆ライダー』(1969)前夜のテーマ曲ではないかと。
Down On The Street The Stooges
ここで来るのかイギーのストゥージスによるパンク・ロックが、と震えました。時代は70年代に突入して、ここから一気にそれまでのパワーバランスがおかしくなっていくんですね。ラブ&ピースとフラワー・ムーブメントが去り、キャプテン・アメリカもデニス・ホッパーもハーレーから降りてしまったように、どんな組織もこの時代から解体と再構築を余儀なくされていくわけで、バイクチーム“ヴァンダルズ”も例外ではなかったわけです。1970年リリースのアルバム『Fun House』からのチョイスのこの曲、パンクと言っても世間的にはそうした音楽ジャンルが通用するまでまだ6,7年かかるわけで、この時点でのストゥージスの楽曲たちってもちろん先見的ですけど、基本的にはどこにも行けない“怒り”の告発みたいなものなんですよね。好きに生きてきたバイカーたちのどこにも向けられない怒りの感情が、イギーの断末魔的叫びと同化していくようです。
というわけでいろいろな楽曲を紹介してきましたが、一曲一曲のチョイスもレアならこれらが集まるコンピ・サントラって一体どんだけレアなんだという。新曲で勝負するサントラも出てくればこんなに既成曲ばかりで燃え上がらせるサントラもある。まったくぐちゃぐちゃなサントラ新時代でオモシロイです。でもですね、まだまだこの映画に登場する楽曲はたくさんあって、実はこれはほんの一部なんです。恐ろしく的確で親和性のある選曲たちなので、映画とともにあの時代のロック、ソウル、ブルースも満喫できる作品なので、是非まずは劇場へ。(別にタイアップ記事じゃなくて、ホントに気に入ったからこれだけ紹介してるんです)。
しかしちょっとこういう作品を堪能してしまうと、前述したタランテイーノとか、あとソフィア・コッポラとかエドガー・ライトとかの映画に対して、なに気取ってんだよと文句を言いたくなっちゃいますね。人生いろいろ、映画もいろいろなのであります。ではまたカッキンで。