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このサントラ、ちょっとレア。第14回 カウリスマキ映画に素敵トラック満載がまだまだある件

レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』三度の飯ぐらいに映画好き、志田一穂がご案内してまいります。

さて、前回に引き続きフィンランド映画界の泥酔映画監督アキ・カウリスマキ作品の素敵なサントラをご紹介。まずフィーチャーしたいのが2002年の映画『過去のない男』。暴漢に殴られて記憶を失くした男の自由気ままな第二の生活を描いた本作。このサントラがもう愛おしくなるくらいよく出来たサントラたちなので、映画も観てほしいが、サントラも是非聴いていただきたいのであります。

この映画を観ればカウリスマキ監督がいかに音楽通かということが判るのですね。そもそも前回、監督の作品では音楽に関してズバ抜けたセンスあり(しかももちろんカウリスマキが選曲)とお伝えしていますが、本作のバラエティーに富んだ選曲群は別格。ブルース・ロック、バンドネオン、シャンソン、トラディショナル、そしてクラシック。ジャンルは様々なのにどうしてこれだけ統一感が描けているのか。やはりそこがセンスというものなのでしょうね。ではそのサントラからオススメ曲をご紹介。

まず何がシビれるって60年代半ばに活躍していたブリティッシュ・ビート・バンド、レネゲイズの楽曲が二曲ガッツリ引用されていること。

「Do The Shake!~揺さぶろう!」と「My Heart Must Do The Crying~僕の心は泣いている」。カウリスマキ監督のロック好きは有名ですが、同じリヴァプール出身でもビートルズではなくこちらを持ってくるところが相当にニクい。まぁそもそもビートルズとか見向きもしない人っぽいですが。でも、ロックを映画の中で引用することほどその監督のセンスが問われることに繋がるのではないかと思っているのですがどう思われますでしょうか。カウリスマキ作品においては、流れるロックがどんなに激しくビートが効いていても何故かゆる~い虚脱感に包まれると。それがフィンランドという国の落ち着いた空気と、オフビートな雰囲気にしっかりマッチするのでしょうか。この世界観、ハマるとなかなか抜け出せないので要注意ですね。しかし60sブリティッシュ・ロックのこのノリの良さったらないんです。最近またまたブームになりそうな気配がありますから、このレネゲイズ、是非聴いて楽しんでいただきたいです。

さてその『過去のない男』ですが、劇中の演奏シーンに登場するのが、これまたシブいブルース・ロックというか歌謡ロックというか演歌ロックというか、切なくて激しくてイナタい楽曲「Paha Vaani~悪魔に追われて」を歌うマルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカですね。

このバンドのサウンドもとてもイイのでやはり一刻も早く聴いていただきたいのであります。90年代後半にフィンランドで結成されたバンドだそうで日本にも来日し恵比寿ガーデンプレイスを人知れず満杯にしたという激レアグループです。彼らはもう一曲、劇中で「Thunder And Lightning」と「Stay」も披露しています。とにかくシビれるので聴いてほしいです。

さらに登場する楽曲はなかなかのサプライズ。我らが日本のイナセなグループ、クレイジーケンバンドの「ハワイの夜」と、そのメンバーでギタリスト、小野瀬雅生のソロ楽曲「Motto Wasabi」。この二曲が、なかなかに物語を惹き立てていく演出で、劇中びんびんに響き渡るのです。前者CKB楽曲は横山剣氏の「ホノルル~♪」「チャイナタウン~♪」と、こぶしききまくりなハワイアン演歌歌謡バラッド。

フィンランドのヘルシンキにある日本料理屋で流れるハワイアンなこのシーン。劇場公開時に観ながら、どうしてこんなに違和感がないのかよと涙腺緩むほどの言い知れぬ感動がありましたね。もちろん楽曲だけでも完全プチ・チル的なDJフロア向きです。後者は焼きそば大好きギタリスト小野瀬氏によるガレージロックにサーフサウンドをMIXしたようなクール・グルーヴ。

これもまた自然とカウリスマキ・ワールドにフィットしているから嬉しいのです。それぞれに共通するこの無国籍感。めちゃくちゃカッコいいんですね。

劇中登場し演奏を聴かせてくれるバンドのシーンもカウリスマキ作品には欠かせないアプローチです。本作に限らず名作『マッチ工場の少女』(1991)の何気ないカフェのシーンでも、ジュークボックスから延々流れるギター・インストのロックな楽曲「Kolme Kitaraa」(The Strangers)がとても心や気持ちに響くし、傑作『浮き雲』(1997)でもカード賭博をしているうらぶれた一室でガンガンかかるスリーピース・ロック「Human Rights For Snakes」(Melrose)も、緊張感あるシーンのくせになんとも言えない陽気さが充満していてタマラないのです。ホント、カウリスマキ監督の音楽センスたるやなのですね。

今回のオマケ、というかこれもしっかり紹介したいベスト・レアサントラ。一度は監督引退宣言していたカウリスマキがロシア・ウクライナ戦争への怒りとともに再び復活しメガホンをとった大傑作『枯れ葉』(2023)に登場する女性二人組のポップ・デュオ、Maustetytöt (マウステテュトット)の楽曲です。

彼女たちもフィンランド在住のユニットで、やはり劇中の演奏シーンでシンセ・ウェイブばりばりの「Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin」(なんて発音すればよいのやら)を歌ってくれています。この曲を聴けば現在のフィンランドという国がどのような日常や情勢になっているのか、そんなことすら何気に伝わってくるムード満点の名曲です。これを聴いたとき、つまりこの演奏シーンを観たとき、相変わらずカウリスマキ監督のセンスは素晴らしい、帰って来てくれて本当に嬉しい、とまたまた涙腺プチ崩壊だったわけであります。彼女たちの曲も是非聴いていただきたいのであります。

Recommend!

『The Man Without A Past~過去のない男 original soundtrack』VA

>>CD

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします!こちらから聴いてね!湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9 (何をかけるかはお楽しみ)

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