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このサントラ、ちょっとレア。第13回 カウリスマキ映画には素敵なトラック満載な件

レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画があればなんでもできる、志田一穂がご案内してまいります。

さて、今回はフィンランド映画界の酔いどれ巨匠監督👆アキ・カウリスマキ作品のサントラです。レアなトラックも多々ありますがそれより何より彼がチョイスする音楽のセンスが素晴らしいのですね。それをぜひとも紹介したいのです。カウリスマキ映画との出会いは学生時代の1990年だったでしょうか。当時在籍していた映画サークルの仲間が「とんでもなく奇妙で面白いロックバンドの映画がある」と言うんですね。すると僕が、「え?コミットメンツなら観たぜ?」と言うと、そんなもんじゃないもっと狂ったバンドの奴らの映画だ、と言うわけです。「そんなにおかしいの?」と聞くと、おかしい、と言う。「コメディーか」と聞くと、わからない、と言う。なんなんだその映画はということでビデオを借りて観たのが、『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989)なんですね。

『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』。もうこのビデオパッケージを観ただけでサークル仲間が言っていた「おかしい」「狂っている」「わからない」をそのまま表していますよね。トサカのようなリーゼントにとんがったブーツ。こいつらが全員バンドメンバーなのか、皆同じスタイルで既に異様でしかありません。しかも車の上に棺桶ともう一人のメンバー(!?)が。意味不明にギターまで刺さっているし。今思えばこれってあの『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル』(2018)でも見たな、と思うのですが、この当時はそんなの知る由もないわけで、そういう意味ではここから異様な狂い咲き北欧映画の幕は切って落とされていたということでしょうか。

とにかくレニングラード・カウボーイズとやら、確かになんだかクレイジーのようで、確かにこれではなんだかよくわからない。で、観ましたね映画『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を。初カウリスマキです。でもこのときはこの監督がフィンランドを代表する人気監督だなんてことも知らないし、第一フィンランドってどのあたり?ニョロニョロとムーミンの国でしょ?ぐらいの知識しかないもので、観始めるとあれよあれよと展開していく作品にドドドと飲み込まれていったというのが正直なところ。ロックで、だけどオフビートで、しかしめちゃくちゃクールで、ユーモアたっぷり、センス抜群。なんなのこれ凄く面白い!となって、とりあえずどうするどうする!?となり、まずはサントラだけは即買いしたのですね(ここはさすがのサントラ好き)。その後、廉価版のVHSビデオまで買っちゃったくらい、この映画の、というよりアキ・カウリスマキ映画の大ファンになってしまったのです。

しかしどうやらこの監督、四六時中ウオッカを呑んでいる完全アル中の映画監督とか。自分の中でのフィンランドのイメージがどんどんおかしくなっていく感じがしましたね。だって、フィンランドの音楽と言えば冬の美しさ漂う透き通ったメロディーや、トラディショナル(民謡)なポルカといった印象が強いのですが、この映画に登場するレニングラード・カウボーイズというバンドのサウンドはとにかくガチャガチャうるさいガレージ・ロックなんです。

湖のほとりでささやくような音楽を奏でているのとは対極をなす、荒れ果てたツンドラ地帯の果てで荒くれ者たちが勝手気ままに叫びまくっているロックだと。だけどそこには何故か哀愁が込められいて、自由を求めるパンクなスピリットをも感じる、微妙にアツいサウンドなのです。美しいだけじゃない、世界の果て的センチメンタリズムもまたフィンランドチックということなのですね。

でサントラからのお薦めトラックですが、まずはエルヴィス・プレスリーの「That’s Alright」(M-10)をなんとも田舎クサいノリで必死にカバーしているのが可笑しいのです。ロックはやっぱりプレスリーという安直な捉え方が笑えます。と思ったらいきなりお次はステッペン・ウルフの「Born To Be Wild~ワイルドでいこう」(M-13)ですよ。from『イージー☆ライダー』(1969)ですね。これもまた売られた喧嘩にいきり立ってがむしゃらに叩きつけてきた田舎の絶唱カラオケボックス的なダサさで、そういう意味ではかなり笑えるレア・サントラです。というかこれはまぁ映画の演出としての演奏なので、だから笑える、というものなのですが、本当はかなり高度なテクニックとパフォーマンスを有しているバンド、それがレニングラード・カウボーイズなので、映画にも音楽にもしっかり対応している姿が逆に微笑ましかったりします。だってバックの演奏だけ聴いていると、こいつらフィンランドとか言いながらかなりヤバいなと思わされますので。それを証明するかの如くしっかりしっとりとブルージーに聴かせてくれるのが、やはり劇中で歌われる「Ballad Of The Leningrad Cowboys~レニングラード・カウボーイズのバラッド」(M-17)です。これの確かなR&B風味とコーラス・ハーモニーを聴けば、ただのコメディアン・タレントではないなこの人たち、ということがわかりました。

それもそのはずでして、このあと驚かされるのがこのカウリスマキ作品なのです。

1994年に登場したライブ・ドキュメンタリー映画『トータル・バラライカ・ショー』ですね。え、カウリスマキ監督がライブ・フィルムを?と調べてみると、なんてことはない、あのレニングラード・カウボーイズのライブじゃないですか。しかしですよ、このライブ、旧ソ連の退役軍人らによる大合唱団、アレクサンドル・レッド・アーミー・コーラス・アンド・アンサンブルとのジョイントで、なんと7万人もの観客を集めた屋外ロック・コンサートだったというじゃないですか!見てくださいこの大観衆!!

これすぐに当時試写で観させてもらったのですが(昔はそういう仕事してたんです)、まぁとにかく驚愕しました。歴代ロックの名曲たちのカバーを様々なトラディショナルのフレーズを塗しながら絶妙にアレンジ。その楽曲たちの楽しさもさることながら、やはりこのレニングラード・カウボーイズというバンドがしっかり実在する本格的ロックバンドだったんだ!ということと、ヘルシンキやベルリンでこのような大規模コンサートを開催し世界的に大ブレイクしているんじゃん!ということ。そして何より演奏力、パフォーマンス力がハンパじゃないということでしたね。

ライブで演奏されているロックの名曲カバーたちは、しっかりとスタジオレコーディングもされCD化されているので是非探し求めてほしい一枚です(下記でレコメンドしますね)。もちろんライブ映画『トータル・バラライカ・ショー』も一見の価値あり。さすがのカウリスマキ監督もとにかくこのライブの光景を驚きのあまり淡々と記録するしか術はなかったのか、あるいはやはりウオッカで終始酔っぱらっていたのか、大変冷静に観客視線でまとめてくれております。

なんだかカウリスマキ作品の話からすっかりレニングラード・カウボーイズのネタ話ばかりになってしまいました。そういう意味ではカウリスマキ監督が映画で最初に彼らを起用したセンスというものが、結果的にこうしたグローバルな展開へと発展したわけですから、なかなかの功労者であり立役者ですよね。まぁカウリスマキ作品のサントラ話は次回へとつづくということにして、今回のオマケもレニングラード・カウボーイズの小ネタ3連発といきましょう。

★あまりにも面白い奴らだから日本にもやってきた!タカラCANチューハイのCMに出演して8cm CDシングルまで出しちゃった!

★日本に来た勢いで当時ミュージシャンとしても勢いづいていた永瀬正敏ともアルバムで共演!そのアルバムとは彼のセカンド・アルバム「Vending Machine」(1996)。その中で…

なんとジュリーの「TOKIO」をコラボしているのです!カウボーイズの流暢な日本語歌唱も披露されていてそれにもびっくり!(来日ライブでも聴きましたが日本語ホントに上手かった)

★そして映画でGOアメリカのあとは、なんと宇宙にまで行ってしまった(笑)。名盤ならぬ迷盤「レニングラード・ゴー・スペース」(1996)。これですねぇ、かなりイイんですよ。ヒットチャートも狙えるほどのパワーポップなお薦めトラックはM-8の「Brave New World」です!

では、次回もこの続きを。カウリスマキ作品のレア・サントラ紹介パート2でお会いしましょう!

Recommend!

HAPPY TOGETHER Leningrad Cowboys (1994)

数々のロックの名曲を

アレクサンドル・レッド・アーミー・コーラス・アンド・アンサンブルとともにカバー!

収録曲

LET’S WORK TOGETHER, IT’S ONLY ROCK N’ROLLL, DANCIN’ IN THE STREET

KNOCKIN’ ON HEAVEN’S DOOR, HAPPY TOGETHER, CALIFORNIA GIRL

YELLOW SUBMARINE, GIMME ALL YOUR LOVIN’, DELILAH

SWEET HOME ALABAMA, STAIRWAY TO HEAVEN, JUST A GIGOLO (I AIN’T GOT NOBODY)

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFMの映画音楽番組『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします。こちらから聴いてね!(いつ何をかけるかはお楽しみですが~)

湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9

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