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このサントラ、ちょっとレア。第12回 歴代イメージソングたちに罪などない件

レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画が無いとちょっと無理…な、志田一穂がご案内してまいります。

さて、今回はイメージソングがテーマなのです。映画の劇中流れる主題歌やテーマ曲がある場合は、その楽曲とともに予告編やテレビCM、ラジオCMが作られていくのが常ですが、洋画となると日本映画みたいにタイアップ主義で必ず主題歌があって、エンドロールで必ず流れるわけでもないので、だったらキャッチ―なイメージソングをこちらで作って、それとともにプロモーションしていこうという、言ってみればこれもまたプチ・タイアップ的な考え方なんですね。しかしこれが映画ファンにとっては大変紛らわしいシロモノばかりで、CMなどで印象的に映画を認識した際、実際に観に行くとそれが流れてこないと。あるいはイメージソングと割り切っていてもエンドロールで流れてきちゃったり。結果あの曲はなんだったんだ?と混乱するわけです。つまりその存在が曖昧すぎて、受け入れるべきか放っておくべきか悩むわけですね。厄介な奴ら、それがイメージソングなのです。もちろんそんな曲たちに罪などないわけで、これも劇場まで足を運んでもらうための映画ビジネスの一つというだけの話。しかしなぁ、これじゃあなぁ、なんて、まぁこんな思いに耽るのも映画ファン、映画バカだからなんですけどね。

それはともかく、歴代気になって仕方なさすぎてツッコミたくて仕方ないイメージソングたち、紹介していきましょう。存在がアバウトでもなんでも映画にれっきとして付随している曲ということは間違いないですからね。まずこちらです。

いきなり怪しさフルスロットルなジャケットですね。あの名作『ビッグ・ウェンズデー』(1978)のイメージソングです。言うに事欠いてサウンドトラック盤なんて表記がありますが、一瞬コラコラと怒り沸騰しつつも、実はこの曲、映画公開時にしっかりとエンドロールで流れていたというから驚きです(ワタシ確かに聴きましたよというナウシカ安田成美ばりの証言多々あり)。天下のワーナー配給作品なのに勝手に曲を差し替えるとは、本作の音楽を担当した名作曲家、ベイジル・ポールドゥリスにとりあえず謝罪な?と思わずイキり立つほどですよ。しかし本編フィルムに乗せてしまった以上、確かにサウンドトラック盤という言い方は嘘ではないのですね。だからなんか悔しい。そもそも歌っているこの方は誰なのか。左の二人も誰?お前らがメロディーなの?と、謎でしかないアー写に加え、曲タイトル「こころに海を~THE WORLD SEAのテーマ」の英語部分だけをTシャツにプリントしポーズを決めているという、まったく無駄な便乗としか思えない有り様です。1979年公開時に作られた曲ですからまだまだニュー・ミュージックにいまいちなり切れない、中途半端なフォークソングのくせに、サビではしっかり「♪おぉビッグ・ウェンズデ~」なんて歌詞にまでタイトル入れちゃって、間奏では波音まで忍ばせる淀みない並走演出。夏のDJイベントで回しても効力を発揮しない単なるウケ狙いソングですが、これはなに?というざわざわ感は間違いなく発生するツッコミアイテムでもあります。

お次もびっくりポンなイメージソング。アガサ・クリスティー原作の映画化シリーズの大ヒット作『ナイル殺人事件』(1978)。ここにもあったんですね、とんでもないのが。それがこちらです。

タイトル「ミステリー・ナイル」をサビで何度もひたすら叫び歌うこの曲もまた、劇場公開時にエンドロール曲として差し替えられていたという凶悪犯罪レベルな事実があるのです(ジャケにはオリジナル・オープニング・テーマなどとあってこれも誤情報。JAROってなんじゃろに通報必至ですよ)。とにかくこの作品、映画ファンにとってはオープニングからあのニーノ・ロータによる壮大かつ抒情的な素晴らしいサウンドトラックに酔いしれ続けていたはずなのに、なんでラストで「♪ミステリ~ナイル~」と火曜サスペンス劇場みたいな歌を聴かねばならないのか。これもまたニーノ御大に土下座しなければならない重大案件であります。しかし、歌っているのはなんとあのサンディー&ザ・サンセッツとしてデビューする前のサンディーで、名義はサンデイ―・オニール。映画との相乗効果でこのシングル盤もヒットし、そういう意味ではこれが本格シンガーデビューへの足掛かりとなったのかもしれませんが、そんなこと映画ファンの我々にとっては知ったこっちゃないのですね。配給はイメージソング戦略が十八番の東宝東和であります。映画をヒットさせるためにこの配給会社は手を変え品を変え、大仰なアプローチで攻めていくことで有名ですが、このあと80年代に入ってからは、さらにその戦略の拍車がかかっていくのです。

その80年代の東宝東和配給作品で紹介したいのが、当時としては割と地味に登場したにも関わらずそこそこのヒットを記録したという『バトルトラック』(1982)という作品ですね。

ニュージーランド発のアクション映画。しかし蓋を開けてみるとなんだこれ『マッドマックス』じゃんと。しかもエンディング曲はイースタン・オービットというプログレ風味満載の日本のハードロックバンド。確かにこの頃、亜流マッドマックスが粗製乱造気味だったので、安く買ったこの作品にも当然イメージソングをと、近未来アクションにはハードロックだと言わんばかりに起用したのではないかと。しかし実は当時の丸刈りバカ中学生志田はこの曲をテレビCMで聴いてまんまとハマりました。カッコいい!アクション凄そう!前売り券買うぞ!と完全に魂こがされ劇場へ。内容はさておき、とにかくエンディングで流れる楽曲「バトルトラック」(そのまんま)は本編イメージともバッチリマッチしていて、なんの違和感もなかったのですね。英語詞ですし、何より楽曲がプログレッシヴ・ハードロック・バラッドなので、これならマッドマックスにだってウォリアーズにだってターミネーターにだって、まぁ合うは合うだろうと。いやぁたまには東宝東和もやるじゃないの、こないだの『ザ・カンニング IQ=0』(1982)でもイメージソングが英語詞で本気で公式ソングかなぁなんて騙されたし、なんて思いましたね。やっぱりイメージソングってひたすら作品のイメージに近づけてこそなんですよ。今回はこれぐらいにして、またこのイメージソング事情についてはいつか続きを書きたいと思っています(まだまだあるので)。

今回のオマケの一曲はミシェル・ゴンドリー監督の『エターナル・サンシャイン』(2004)。

ゼロ年代になってもイメージソングとか言ってる奴らがいるのかと眉間に皺を寄せつつ聴いてみると、これがまたm-floのLISAが歌うバングルスの「エターナル・フレーム」じゃないかよと。確かにエターナルはエターナルだけどそれだけで公式のサントラCDに入れちゃいますか?という話。だってゴンドリー作品だからサントラ引用曲も凝りに凝っていて、E.L.Oにベック、そしてポリフォニック・スプリーなんて激レアなグループまでいるわけで、そのサントラCDの中に、急にLISAの甘ったるい歌声が現れてひっくり返りましたね。当然これは日本盤だけの特別収録。なるほど同時期にLISAが80sカヴァーEPなんぞをリリースしていたのでそこからの連動アプローチ。この時代になるとタイアップで映画を盛り上げるぞ、ではなく、映画に乗っかって曲とアーティストを少しでも露出するぞ、なんですね。

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします!こちらから聴いてね!(何をかけるかはお楽しみ) 湘南ビーチFM | Shonan BeachFM 78.9

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