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このサントラ、ちょっとレア。第10回 ビートルズのサントラネタを不定期報告する件

レアとおぼしきサントラを独断で紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』映画が癒しの素の志田一穂がご案内してまいります。

さて、掲題の通りビートルズのサントラネタを不定期報告する回でございます。かつて「ビートルズ三十六房」という、オリジナルやカバー、レア音源など、とにかくビートルズ・オンリーでプレイすることが鉄則という、まるで修行のようなDJイベントをオーガナイズしていたのですが、そのときもかなりサントラからの引用があったりしました

例えば定番ですが、映画全編ビートルズのカバー曲で統一させた『アイ・アム・サム』(2001)ですとか、『アクロス・ザ・ユニバース』(2007)などからの楽曲は、普通にプレイリストに入ってきて活躍していましたが、ここで紹介するのはそんなもんじゃありません。結構あります、劇中突如現れるビートルズ・ネタ。映画を観ながらそれに遭遇した瞬間はとにかく歓喜モノですし(それぐらいビートルズ狂です)、ちゃんとサントラCDに収録されているのであろうな?とか、CDはダメでも配信は頼むよ?とか、まだ映画鑑賞中なのにいてもたってもいられなくなったりするのです。

ではでは、そんなビートルズのサントラネタ、出し惜しみつつ今回は必殺の二曲をご紹介します。まずは『フォー・ザ・ボーイズ』(1991)からいってみましょう。第二次大戦や朝鮮戦争、さらにベトナム戦争に至るまで、各戦地を音楽慰問に繰り出す男女ユニット。彼らが歌う楽曲の中にしっかり入っておりました。

しかも主演が『ローズ』のベット・ミドラーですから、当然歌っているのもご本人。で、歌唱クオリティーはダントツの出来。曲もメロウな傑作「In My Life」で、それはそれは珠玉のカバーとなっているのです。

この曲は『アイ・アム・サム』でも『アクロス・ザ・ユニバース』でもカバーされていないのでマスト・チェックですね。ちなみに同サントラ・アルバムには「P.S. I Love You」というタイトルの曲も収録されており、お!このビートルズ曲も歌ってたっけ…と聴き逃していた自分を一瞬恥じたりするのですが、いやいやこちらはどうやら1934年の楽曲で、あのビリー・ホリデイの愛唱歌の方でした。まったくビートルズ修行僧としてはいちいち反応してしまって困ったものです。(この曲は素晴らしい楽曲ですよ、念のため)

もう一曲、かなり珍しいところを紹介しましょう、1988年の『存在の耐えられない軽さ』で登場する、あの「Hey Jude」ですね。

チェコの女性シンガー、マルタ・クビショヴァが歌うこの「Hey Jude」は、歌詞がチェコ語に替えられ、内容も女性から女性へと送る讃歌にアレンジされているのです。60年代後半に、ソ連によって表現も含めすべてにおいて弾圧を受けていたチェコが、自由革命と銘打ち、民主化運動 “プラハの春”として決起したのですね。これは歴史的な革命となって世界へと影響を及ぼしていきますが(結果即刻鎮圧されるが)、その後、歌手マルタはこの嘆きと諦めないための希望を託した「Hey Jude」を発表したのです。

本作『存在の耐えられない軽さ』にはその革命運動シーンがかなり激しく描かれていて、その際にこの楽曲が引用されているということで、厳密に言えばこれは映画のための楽曲ではなく、かつて歌われるべくして歌われたメッセージ・ソングであり、それが映画の中で聴けるというものです。

しかしそうした機会もなければ、二十年余りも経った80年代後半にどうやって“プラハの春”という重要な民主化運動や、そこから生まれた貴重な「Hey Jude」を知ることが出来ますでしょうか。

映画というものはこうして時代時代の認識すべき史実もしっかり教示してくれるものであり、またそこから生まれたいわゆる流行歌の存在もしっかり届けてくれるものなのですね。それはとても大切な機会だと思いますし、だから自分はできるだけノンフィクション作品を進んで観るようにはしているのです。ガキの頃は歴史とか面倒くさくて勉強怠っていましたからね。今は反省しながら、映画からたくさんのことを教わっているのです。もちろん、ビートルズの影響力とその偉大さも。

プラスαで一つだけ補足を。前述した、劇中まるまるビートルズ・カバーがサントラ作品としてあえてそこと一くくりにしない(したくない)肝心カナメの作品をもう一作。2019年の『イエスタデイ』ですね。もしもこの世にビートルズが存在していなかったら…という異世界に、いきなり生きていくことになった主人公のお話という、とんでもない設定なのですが、こちらはビートルズ・カバーが群を抜いて秀逸なものばかり。これについては『アイ・アム・サム』と『アクロス・ザ・ユニバース』も含めて、また良き機会に論じていきたいと思います。とは言え、こちらはまずレコメンドしておいて、じっくりビートルズのレア・サウンドを聴いておいていただきましょうね。

Recommend

『Yesterday Original Motion Picture Soundtrack』(2019)

>>> CD, Vinyl, Apple Music, Spotify

志田一穂がジョニー志田名義でお送りしている湘南ビーチFM/SBCラジオ『seaside theatre』にて、今回紹介したサントラ数曲を番組でもOAいたします!こちらから聴いてね!(何をかけるかはお楽しみ)

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