このサントラ、ちょっと、レア。第25回 ディランにも名もなき映画が結構ある件

レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』 いよいよ新刊拙書『映画少年マルガリータ』発売が近づいております。志田一穂がご案内します。

さて、ボブ・ディランの若き頃を描いた映画『名もなき者 / A COMPLETE UNKNOWN』(2024)が公開となり話題となりましたが、その注目度と言えばやっぱりディランを演じたティモシー・シャラメが歌と演奏を完コピしちゃって、それがなかなかイイじゃない!ということに尽きますね。『君の名前で僕を呼んで』(2017)で一躍スポットライトが当たったティモくんですが、そこからあれよあれよという間に砂の惑星でバトるわ(2021)、チョコレート工場で歌うわで(2023)、すっかりハリウッド・スターの仲間入り。しかもディランを演じると決まれば、コロナ禍のステイホーム中にギターを手にしてひたすら練習していたというからその健気な役作りも併せて一気に高評価でしたね。髪の毛のモジャモジャ具合とスラっとしたボヘミアン風情なスタイルもホントにディランそのまんまで嬉しくなりました。

でも今回はティモくんネタではありません。本当の主役であるディラン自身をフィーチャーするのであります。しかもディランが関係している、あまり知られていない、いや、言い方が悪いですね、知る人ぞ知る映画たちを紹介しながら、実は作品の中身はどうあれサントラは要チェックですよって話をさせていただきます。

まずはディラン関連の映画と言えば、コアファンなら最初にこの作品を口にするでしょう、『ビリィ・ザ・キッド/21歳の生涯』(1973)です。

19世紀中頃に実在した西部のアウトロー、ビリィ・ザ・キッドの半生を描いた作品で、監督は泣く子も黙るサム“ワイルドバンチ”ペキンパー。主役のビリィ役にカントリー界のシンガーソングライター、クリス・クリストファーソンが抜擢されるなど、既に土臭い雰囲気充満の男気映画ですね。ディランはそんな男の世界の音楽を全編担当し、あの名曲『天国の扉 (Knockin’ on Heaven’s Door)』を惜し気もなくご提供。同曲収録のサウンドトラック・アルバム『Pat Garrett & Billy the Kid』は、ディラン作曲のインスト含め、普段の歌ものアルバムとは全く違う世界観を聴かせてくれています。

これがもう本当にイイんです。古き良きアメリカン・トラッド的なサウンドたちは、今やドライブ・ミュージックにも持ってこいの雰囲気抜群な内容で超オススメです。さらにディランはビリィをなんとなく手助けするエイリアスという若者の役で出演もしているので、俳優ディランを観てみたいという方は映画本編の方も是非にでございます。

お次は一気に時代が飛んで80年代。もうディランに限らずベテラン・ミュージシャンたちの80sと言うとイヤな予感しかしないのですが、それはディランも例外ではないんですね。どうしても80年代になるとシンセのシャラシャラなメロディーや、ポコポコ言って全然迫力の無いドラムマシーンの音が目立ってしまうのですが、それが時代の最先端であれば、たとえ天下のディランであろうと、結構そんなサウンドもちらほらと。なので80sディランはセールス的にも厳しい時代ではありました。で、そんなさなかに出演と音楽を担当した映画がありまして、『ハート・オブ・ファイア』(1987)がそれですね。

これはもうレア作品にしてレア・サントラであります。なぜかと言うと、まずこの作品、日本未公開といういわく付き。だからほぼ知られていないというわけでして。たとえディラン主演の音楽映画でも、日本の配給会社の誰もが買い付けしなかったという悲しい末路を辿った作品なのですね。しかも内容と言えば、当時流行った『ストリート・オブ・ファイアー』や『愛と栄光の日々』のような物語。ディランにルパート・エヴェレット、そしてフィオナといったよくわからない三人組が、ロックでブレイクを目指すというあまりにもチョロいストーリー。出来もよくなかったのか、あるいは80年代ディランの人気がやっぱり今ひとつだったからか、とにかくまさに知る人ぞ知る作品になってしまったのです。

しかし、サントラはちゃんとリリースされております!本編ダメでもサントラがある!輸入盤としてなら日本でもたまに見かけることができるこのヴァイナル。志田はこのアルバムをかつてロサンゼルスのバカでかい中古レコード屋、アメーバ・ミュージックで見つけてゲットしましたが(8$もした!)、ディランの曲は3曲だけとは言えかなり激しくシャウトしているので、なかなか貴重&レア、よって大満足でした。残念ながらこのアルバムはまだサブスクでも聴けないので、とにかく中古レコード屋で輸入盤を探すべし!ですね。

最後にディラン関連の映画でサントラオススメの作品、ちょっと変わった二作を紹介しましょう。まずは『ボブ・ディランの頭のなか』(2003)です。

もうなんちゅう邦題を付けるんだとドロップキックをお見舞いしたくなるようなタイトルですが、これ原題は「Masked and Anonymous」と言って、直訳すると「マスクをした無名の人」ってことになるわけで、もうこのときから“名もなき者映画”が登場してるってことじゃん!とさらにツッコミたくなるのであります。で、そんな妙なタイトルですから、中身も正直言って謎すぎる作品でした。荒れ果てた近未来、投獄されていたロック・ミュージシャンが平和を目指すために歌で戦う的な話で、なんと脚本はディラン自身だから困っちゃう。どうしてこういうことをやらかしちゃうのかという点ではニール・ヤングなんかも同様の映画バカだったりするので、まあそういうもんなんでしょうね。

因みにこちらは👇ニール・ヤング監督の底抜けトホホ映画「ヒューマン・ハイウェイ」。

それはともかく、こういった連中の映画はやっぱりどうして、中身よりサントラです。音楽はちょっと奇抜でレアだけどかなりイイんです。ディラン自身が歌う楽曲は2曲程度ですが、他はすべて様々なアーティテストたちが歌ったディラン・ソングのカバーなのですね。

珍しいところではゴスペル界からシャーリー・シーザーやデキシー・ハミングバーズが参加していたり(誰たち?)、イタリアのシンガーソングライター、フランチェスコ・デ・グレゴーリ(誰?)や、トルコはイスタンブールからはセルタブ・エレネル(だから誰?)などが参加。いや、こうして知らないアーティストたちの音源が聴けることこそありがたいという意味ですよ?だって日本からも「マイ・バック・ページ」を歌った真心ブラザースのテイクが使用されたりと(当コラム第4回「使用料高額でもやり方一つでリスペクトな件」参照)、これは逆の意味で、海外のディラン・ファンからは、誰?日本のアーティストがディランを?と珍しがるとこですからね。でもこれだけの方々が参加している段階で、もうなんだか混乱気味のディラン・ミクスチュアです。そんな中にグレイトフル・デッドも混ざっていたりもするので、ホント、映画は置いといて是非サントラの方を楽しんでいただきたいです。

もう一作も似て非なるサントラが降臨しておりまして、映画『アイム・ノット・ゼア』(2007)がそれであります。

これもまたディランという生けしレジェンドをネタにした難解作でして、要はいろいろな俳優がディランを演じ、彼の半生がそれぞれの切り口で描かれていくのですが、そのアレンジ具合が結構エグい作品でありました。そもそもディランを演じた中にリチャード・ギアがいたりヒース・レジャーがいたりする時点でどうしちゃったの?という感じですし、ケイト・ブランシェットまでディランを演じるって、ちょっとやりすぎ感ないですか?…なのです。

というわけでこちらも映画自体は置いときまして、サントラですよサントラ。これもまた「頭のなか」同様ディラン・カバーのオンパレードで、超豪華アーティストたちによるコンピになっています。映画タイトル曲を歌うソニック・ユースに、Fourth Time AroundやI Wanna Be Your Loverを歌うヨ・ラ・テンゴ。さらにアントニー&ジョンソンズエディ・ベダーなど、オルタナ勢の参戦に時代を感じます。あわせてウィリー・ネルソンやジャック・ジョンソンなどといった意外な方々や、やっぱりいましたロジャー・マッギンと、皆さんそれぞれが喜々としてディランを演奏しております。

CD2枚組でゼロ年代にブラッシュアップされたディラン・ソングたちがひしめき合っているサントラなので、本編の中身はよくわからなくても、よくぞこの映画を作ってくれましたと。そのおかげでこんなレアなコンピが実現してしまうんだから、ありがたやありがたやなのであります。

さて、今回は「名もなき者」大ヒット公開が少し落ち着いたところでのディラン映画、いろいろ紹介してみましたが、こうして整理してみるとやっぱりディランって存在、不思議な立ち位置ですよね。

ビリィ・ザ・キッドやハート・オブ・ファイアの息抜き的な映画が点在してしまっていたり、頭のなかやノット・ゼアのように神格化を通り越してキャラ化されてしまったディランがいたり…。まぁ恐らくは当の本人が一番映画という自分にとっては別フィールドでただ楽しんでいるだけのようにも取れるわけですが、そういう意味では捉えどころのないレジェンダリーで偶像みたいな存在なのが、どんな名前にも例えられないボブ・ディランという人なのでしょうね。映画以上に何を言っているのかよくわからなくなってきましたので、今回はここまでで…。

では次回もカッキンで。

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