
レアとおぼしきサントラを勝手気ままに紹介していく『このサントラ、ちょっとレア。』最近映画を観すぎて頭がこんがらがって次から次へと記憶を失くしている志田一穂がご案内します。

さて、今回は最強ロックバンド、クイーンが手がけた映画音楽を再確認するという、一体誰の為にそんな確認作業をするのかよくわからない回でございますが別にいいじゃありませんか。これまでビートルズとかスティングとか、アーティストと映画の関係を調査してきて、このシリーズも続けていこうかと思ったとき、頭の中でズンズンズンズン…と何かが迫りくるようなリズムが響いてきたんですね。なんだなんだこれはなんだと思ったら、あぁこれは「フラッシュのテーマ」でねぇの、と気づいた次第。そうして、そうだお次はクイーンだと決めたわけであります。

で、そのズンズン曲こそが映画『フラッシュ・ゴードン』(1980)のテーマ。クイーンの四人はこのテーマ曲のみならず、ほぼすべてのサウンドトラックを手掛けるという偉業にして荒業をいきなり成し遂げたのであります。それまで映画音楽なんてやったことがない連中がですよ。でもしかし、ということはサントラ盤でクイーンの曲がたくさん聴けるってこと?と、高校生時代の志田はすぐさま興味津々でアルバム『フラッシュ・ゴードン オリジナル・サウンドトラック』(1980)のレコードを友達から借りて聴いてみたところ、なんだこれは、映画そのものじゃないか!とうろたえたのですね。これ、いわゆるドラマ・レコードだったんです。

ドラマ・レコードというのは、物語そのものが台詞や音楽、効果音などで構成されているという、まさしくラジオドラマのようなものなんですね。これがもうかなり凝りまくった内容で、楽曲タイトルもいろいろ付いているのですが、どこからがその曲だかよくわからないほど中身は完全にドラマ優先な作り。歌ものは主題歌である「フラッシュのテーマ」(M-1)と、「ザ・ヒーロー」(M-18)だけではありますが、この映画への参加をきっかけにシンセサイザーを大胆に使い始めたクイーン・サウンドを楽しめるので、とにかくアルバム全体でこのSFワールドを体験することをお薦めしたいです。

例えばズンズンリズムがフィーチャーされ、様々な台詞や効果音が超絶ミックスされたテーマ曲のアナザー・バージョン「フラッシュ・トゥ・ザ・レスキュー」(M-11)や、ブライアン・メイのギター炸裂な「宇宙戦争のテーマ」(M-13)。そしてあの結婚式でお馴染み、「ウェディング・ソング」をやはりメイの炸裂するギターで必要以上に轟かせてしまっている「ウェディング・マーチ」(M-14)もなかなか聴き逃せないレア・クイーン・トラックです。

とにかくテーマ曲のフレーズが至る所に登場するので(前述の「ザ・ヒーロー」も後半は華麗にテーマ曲へと変貌していく)、本作はもうクイーンがかつてから創り上げてきたロックオペラが映画として具現化されたようなものであります。本編の特撮や、もともとマンガ原作だった世界観の再現度は結構トホホな中身ではありますが、クイーン推しの方やロック・ファンにとってはこの映画ごとチェックしておいていただきたい重要作ではありますね。
次にサウンドトラック、というか主題歌及び挿入曲全般を手掛けたのが1986年の『ハイランダー 悪魔の戦士』です。

監督はイギリスのミュージック・ビデオ界の雄、ラッセル・マルケイで、80年代MTVのOAスタート時、最初に流れたMV「ラジオスターの悲劇」を監督したのも、デュラン・デュランやフリートウッド・マック、カルチャー・クラブといった面々のMVをディレクションしたのもこの監督です。そんなラッセル・マルケイが映画界に進出し、SFアクションを撮ることになったとなれば、クイーンがサントラとしてコラボするのもなるほどと当時納得したものです。

主題歌となった「カインド・オブ・マジック/A Kind Of Magic」は同年リリースのクイーンのアルバムのタイトルにもなった曲で、収録されているバージョンは映画で使用されたしっとりとした雰囲気のものとは違いますが、パンチの効いたアレンジのアルバム・バージョンも最高にクイーン節でカッコいいのです。

このアルバムには映画で登場する楽曲がほぼほぼ収録されているにも関わらず、クイーンのオリジナル・アルバムという扱いになっていて、いわば変則型サントラ盤とも言えるのが既にレアな存在ではあります。その後2011年にリリースされたデラックス・エディションでようやく映画版「カインド・オブ・マジック/A Kind Of Magic」が収録されましたが、映画ファンが期待した劇中で流れるフランク・シナトラの「ニューヨーク,ニューヨーク」のクイーン・カバー・バージョンは未だ音盤化ならずでして、まだまだクイーンのレア・サントラ、今後も発掘の機会は続きそうなのであります。

この『ハイランダー 悪魔の戦士』はラッセル・マルケイの映画界での出世作にもなりましたし、それまで半ば活動停止中だったクイーンが復活したタイミングという話題も伴い、アルバムも大ヒットしました。そしてその勢いで同アルバム収録曲「ワン・ビジョン/One Vision」(M-1)も同年製作の映画『アイアン・イーグル』(1986)に、こちらも主題歌として使用されることになりました。

ワン・ビジョン=一つの展望、一つの世界と歌いあげたこの曲はまさにバラバラだったクイーン四人の友情と信頼の絆を再確認するためのパワフルなロック・チューンで、映画はあの『トップガン』の亜流でしかないスカイ・アクションもの。しかもいまだこれを観たという人と出会ったことがないほどの迷作なのですが、とにもかくにもこの曲さえあればずっと覚えていてあげられるよ『アイアン・イーグル』、といった感じなのであります。
興味深いのはこの「ワン・ビジョン/One Vision」という曲。もともとは「A Kind Of Vision」というタイトルでデモ制作されていまして、曲のベースは「カインド・オブ・マジック/A Kind Of Magic」なのに歌詞とメロディーは「ワン・ビジョン/One Vision」という、かなりマニアライクなエピソードを持つ楽曲なのです。いずれにしても新たに動き出したクイーンとしてのNEWビジョンを楽曲の中でも成立させたかった経緯が聴き取れる貴重なデモ音源ですね。こちらもやはりデラックス・エディションにて確認できます。
その他にも、クイーンの楽曲たちはフレディ亡き後も既成曲使用ということで、「Somebody To Love」などは『Little DJ〜小さな恋の物語』(2007)に使用されたり、『アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス』(2004/劇場未公開)では、この曲をアン・ハサウェイ自らが劇中歌ったりしています。それからこのコラムでも以前紹介した『ハッピー・フィート』(2006)というペンギンアニメ映画でも披露されていますね。

「We Are The Champions」は『ROCK YOU!』(2001)に、「Another One Bites the Dust」は『スモール・ソルジャーズ』(1998)に。「Don’t Stop Me Now」に至っては『ハードコア』(2015)、『ゲーム・ナイト』(2018)、『シャザム!』(2019)、『ソニック・ザ・ムービー』(2020)と登場しまくり。何よりこの曲はあの『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のエンディング・テーマとしてラストの感動をそのまま高揚感へと手繰り寄せてくれたりしました。要するにクイーンの楽曲たちはかねてからビジュアル的であり、映像とのマッチングはMTV時代以前から確証されていたと言っても過言ではないのですね。そういえばロックオペラが映画として具現化した、なんて言いましたが、これはそもそも逆だったってことでしょうか。ビジョンありきの音楽制作。いやはや、凄いバンドでした(まだ現役中)。
では、アーティストと映画の関係シリーズ、また折を見てやりたいと思います!
※今回フレディ・マーキュリー・ソロのサントラは割愛しております。