TOLAちゃんのラジオ番組で歌えなかった夜から、たくちゃんはずっと気分が晴れなかった。
メタバースの街は相変わらずネオンに彩られ、音楽があちこちから流れている。しかし、今のたくちゃんには、それらがすべて遠く感じた。
(オレには音楽は無理なのかもしれない……)
そんなことを考えながら、気づけば知らない通りを歩いていた。そして、ふと視線の先に、小さなレコードショップが目に入る。

「Blue Broccoli Records」
木製のドアにはそう書かれた看板がぶら下がっている。懐かしさを感じるアナログな雰囲気に惹かれ、たくちゃんは無意識のうちに店の中へ入っていった。
◆
店内には壁一面にレコードが並び、スピーカーからは心地よいビートが流れていた。カウンターの奥には、ターンテーブルを回しながらリズムに乗る男がいる。
水色の大きなアフロが特徴的な彼は、まるで音楽そのものを纏っているような雰囲気だった。
「いらっしゃい、音楽好きかい?」
ターンテーブルを回しながら、男が微笑む。
「えっと……音楽は好きだけど、最近はちょっと自信がなくて……」
たくちゃんはポツリと呟いた。
「ふーん、何かあったのか?」
男はレコードを変えながら尋ねる。
「実は……TOLAちゃんのラジオ番組に少し出たんだけど、緊張して歌えなくて。オレ、音楽やってるつもりだったけど、やっぱり才能ないのかなって……」
すると男はフフッと笑った。
「才能なんて言葉に頼るなよ。音楽は楽しむもんだぜ」
「でも……僕はTOLAちゃんみたいに歌えないし……」
「歌えないなら、DJをやればいいさ」
男はそう言って、一枚のレコードを取り出した。
「お前さんにコレをやるよ」

たくちゃんが受け取ったレコードのジャケットには、見覚えのあるデザインが描かれていた。心臓が高鳴る。
「……このレコード、まさか……!」
男はニヤリと笑った。
「そう、今大人気のZUNさんの限定レコードだよ」

家に戻ったたくちゃんは、震える手でターンテーブルにレコードを乗せた。そして、針を落とす。
――♪
スピーカーから流れ出したのは、ZUNさんのあの曲だった。
たくちゃんは目を閉じる。
(これは……Jah Guidance……神様がくれた運命なんじゃないか?)
TOLAちゃんの前では歌えなかった。だけど、DJならできるかもしれない。ZUNさんの音楽を、オレが新しい形で届けられるかもしれない。
胸の奥から熱い想いが湧き上がる。
「よし……オレ、DJをやってみる!」
たくちゃんは決意した。
この一枚のレコードが、彼の新しい音楽人生の始まりだった。
(第7話へ続く)
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・メタバース×音楽小説
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。