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スタジオセッティング移行異聞録 ~Macintosh G5からMPC ONE+への遥かな旅路へ~

それは大いなる旅の始まり・・・

実にドラマティックな内容になるであろう雰囲気を大仰なタイトルで匂わせつつ、約20年使い続けてきたMacintosh G5 + Logic Pro 8から、Akai MPC ONE+(スタンドアローンモード)を中核とするスタジオセットアップに移行するまでの遥かな旅路を、実に地味な文章で綴っていこうと思う。2025年時点でそんな化石のような環境を現代的な環境に移行しようなどという奇特な方が、未だにいるのかはまったくもって謎ではある。しかしながら、どこかの誰か、あるいは将来の自分のために、何か少しでも役立つことがあれば・・・と思い、ここに記載していく次第。

そして旅立ちへ(前提とも言う)

主な使用機材は、Access Virus TI2, Korg Nautilus, Novation K-station, Roland VA-7, Roland TR-6S, Yamaha MG12XU。旧環境であるMacintosh G5, Mac OS 10.4.11にインストールしたLogic Pro 8の作曲データを、Windows 11のノートPCとそのバックアップ用HDDに待避させた後、使用しているハードウェアの全機材をMPC ONE+上で使用できるように設定するのが最終目標。

データ移行編

まずはMacintosh G5に眠っているLogic 8周りのデータを、WindowsノートPCで管理できるように移行開始。G5側はファイルフォーマットがHFS+で、そのままではWindows側でマウントできないため、Pragon Software社のHFS+ for Windowsを購入(3000円くらい)。 ここで早速トラブルが発生した。なんとHFS+の旧ドライブ側でMac OS 9がブートできるようにフォーマットをしていると、Windows側ではHFS+ for Windowsを使っても読み込めないらしい(注意書きにちゃんと書いてある)。また、最終的にはいずれのメディアも、MPCでの利用にAkaiが推奨しているexFAT形式で統一し、MPC ONE+とWindows間でデータを渡してバックアップできるようにもしておきたいが、G5側ではそもそもexFAT形式などという先進的なフォーマットをサポートしていない。

ということで仕方がないので、まずHDDを二つ用意し、Mac上で片方のHDDに一旦データをコピーして待避させ、Windowsに読み込ませるもう一つのHDDをOS 9ブートを無しにして再度HFS+でフォーマットし、これに先のHDDに待避させておいたデータをコピーして、Windows側でHFS+としてブートすることで無事読み込みに成功。そこからWindows上でHDDの中身をさらにネットワークHDDにバックアップを完了した。めでたしめでたし。

(※ちなみにG5側をネットワークに繋いでいれば最初からネットワークHDDにコピーしてバックアップできるのでは?という話は勿論あるのだが、G5はあまりに古く、ネットワークには繋がずに運用しているので、その選択肢は無かった。)

exFATフォーマット準備編

さてさてAkaiがMPCでexFAT形式でのメディア運用を推奨しているということで、手持ちのストレージをexFAT形式に統一する作業を進めていく。この時点で手元にあるのはmicroSDカード(MPC ONE+で作る曲とプラグインを保存する用)、Logitech社のHDD(WindowsノートPCバックアップ用)、Buffalo社のポータブルHDD(MPC ONE+で作る曲のバックアップ用)の三つ。

まずmicroSDはWindowsの標準機能で難なくフォーマット完了。一方でLogitech社とBuffalo社のものについては、Windowsの標準機能でフォーマットしようとしても、何故かフォーマット形式の候補としてexFATが挙がってこないなどの現象に遭遇した。 そこで試しにHDD販売各社がフリーで公開しているフォーマット用ツールをダウンロードしてみた。

ここで色々試して得た教訓は、「ストレージのメーカーとフォーマット用ツールのメーカーは揃えて実行すべし」ということ。Logitech社のHDDをBuffalo社のツールでフォーマットしようとしたり、あるいは逆のことをしたりすると処理途中でエラーが発生。しかしメーカーを統一してフォーマットすることで、最終的には全て問題なくexFAT形式にフォーマットできた。めでたしめでたし。

USB接続編

どうせなら極力USBケーブルで機材を繋いで今風にすっきり配線したいよね。ということでMPC ONE+にUSBハブを繋ぎ、その下にTI2, TR-6S, MG12XU, 化石のようなMIDIインターフェース2機、Buffalo製ポータブルHDDを接続。TI2はオーディオインターフェースとしては動作しなかったが、MIDIメッセージはUSB経由で正常にやり取りできた。TR-6Sは当初、電源確保とMIDIメッセージのやり取りの両方を一気にできれば良いなと思ってのUSB接続だったが、どういうわけか出音のノイズがひどい状況に。これまた試行錯誤の結果、電源をUSB経由で取るのをやめて通常のコンセントに変えてみたところ、すっきりノイズが消えた。原因はよくわからなかったが、結果的にTR-6SではUSBをMIDIケーブルとしてのみ使うことに。MG12XUについては、USBオーディオインターフェースとして使おうとすると、少し再生した後にブロックノイズが乗り始めて消えなくなるトラブルが発生。USB2.0やUSB 3.0の規格の問題かと思ってUSBケーブルを色々変えてみたり、USBハブを通さずに直接挿してみたりと色々試してみたが結果は変わらなかった。そもそもオーディオインターフェース単体のために、一つしかないUSBポートが埋まってしまっては他のシンセをUSB経由で同時に使うことができないので、USBハブを通して問題なく動作しない限りは当初の目的を達することができない。というわけで結局USBオーディオインターフェースとして使うことを断念して、MG12XUについてはオーディオケーブルで音声の入出力をすることにした。Nautilus, VA-7, K-stationは音声をMG12XUに入力し、MIDIを通常のMIDIケーブルで(化石のような)MIDIインターフェースと接続することで全て問題なく動作。もちろんBuffalo製ポータブルHDDもバックアップ用として問題なく動作。 これにて全ての機材の移行が完了というわけだ。

この長い旅を振り返る・・・

以上、こうして振り返ってみると一見単純そうにも思えるが、このセットアップにたどり着くまでに相当な試行錯誤があった。しかし長い旅路の末、無事安定した作曲環境が構築できたのは格別の達成感がある。実のところ、当初Akai MPC ONE+を購入したモチベーションは、ドラム音源を増強しようかなという思い付き程度のもので、DAWレスでの作曲環境についてはたまたま手に入るおまけ程度のつもりでいた。まぁ折角付いてくるのなら少し気分を変えてやってみて、自分に合わなければLogic環境に戻ろう・・・くらいの軽い気持ちだ。

ところが実際に環境を移行し、さらに曲を完成させて気が付いたことがある。明らかに仕上がりの音が良くなっているのだ。しかもどういうわけかマスターの波形もきれい。これにはちょっと驚いた。これだけ長い間お世話になったMac G5にはなんだか申し訳ないが、やはり20年間の技術進歩は伊達ではないということなのだろう。もはや旧環境に戻るべくもない。

また、DAW上で描画してパラメーターを調整するような場面がなくなったことで、必然的に各シンセをハードウェアとして触る機会が増えたことも、体験上の大きな違いの一つだと思う。例えばカットオフのフィルターの変化を付けるために、マウスで直線を描くのではなく、実際にフィルターノブを触って録音するようになった。というのも、MPC ONE+上にはそもそも直線描画ツールに相当するものがなく、代わりに指で直接カーブを描くことになるのだが、そんなことをするくらいならさっさと自分でノブを回して録音した方が圧倒的に早い。結果的に以前のような無機質さや完璧さは薄れるかもしれないが、それはそれで人間的な生々しさが出て良い、という側面もまたあるように思う。別にDAWで曲を作る作業に飽きたとかいうことは全然なかったのだが、しっかりと自分がシンセを弾いている感が以前よりも高くなったのは、予期せず楽しさが増したポイントではある。

作業速度については、さすがに20年来慣れ親しんだDAWでのペースにはまだたどり着けていないが、数曲作り終えた今、かなりの速度で仕上げられるようになってきている実感はある。もう少し慣れれば、きっとそのうち同じ速度で曲を作ることができるようになっていくのだろうと思っている。

その他の細かい点。TI2はLogic 8上ではソフトシンセとして使用してきており、自前で編集して作成した音色はプロジェクトごとに自動的に保存されていたので、わざわざパッチを保存するということがなかった。しかしMPC ONE+にはそもそもSysEXメッセージを記録する機能がないらしく、プロジェクト側に音色の状態を保存することができないため、思い切ってプリセットのパッチを削除してユーザー音色を保存するようになった(TI2は空のユーザーメモリーが存在しないため、プリセットを削除するしかない)。プリセットを消すのは勿体ないという気も最初はしたのだが、一方ではやはり自分がシンセを使い倒している感じが増して、これはこれでまた新鮮な気持ちになれる。

デビューの2009年以来、いや正確にはその数年前から、長らく相棒として活躍してくれたMacintosh G5に感謝しつつ、新生スタジオセットアップでもたくさん曲を作っていきたい。R-04の旅路はまだ始まったばかりなのだ・・・!(・・・♪壮大なBGMと共にスタッフロール・・・)

2025年、ついに始動した新生R-04スタジオセットアップ(の一部)